足元の数字より先々の価値を重視する
菅原:2013年に部署が立ち上がって10年経ちました。塩沢さんは、どうして長年にわたって地域創生事業を続けることができたと思いますか? 今回の企画のテーマは「実践企業に聞く、経済価値と社会価値の両立」です。このバランスをとるのが難しいと考えている人もいると思います。
塩沢:まず短期的に数字を積み上げていくよりも、中長期的、将来的な価値のために日々動いていたことが挙げられます。地域創生事業を担当するにあたり、上長には「私たちの活動は直接的かつ短期的な収益を生み出すのではなく、間接的かつ中長期的に楽天の様々なサービスに貢献することができます」と伝えていました。もちろん、目標はありましたが足元の数字だけを求めないよう約束をしたんです。
菅原:経済価値と社会価値では、実感できるまでの時間軸が違いますからね。
塩沢:そうですね。事業が拡大する中で、経済価値の追求に寄りすぎたときには、社会価値の追求に大きく振り直すなど、この2つの概念はゆらぎながら進化していくことを常に意識しています。
長く続けてくることができたもう1つの理由は使命感でしょうか。青臭い話ですが、創業メンバーである3人全員が「自分たちがやらなければ」という強い想いを持ち続けていたことは大きいと思います。
菅原:価値のある活動とわかっていても、売上や利益が必要な会社の中ではなかなかその価値が認められづらい状況もあると思います。塩沢さんの上長は、その価値を理解してくださる方だったのですね。
塩沢:元々、地域の大切さを理解している人でしたが、より理解を深めてもらえるよう私たちからも働きかけました。たとえば自治体の方々とお会いするときは上長も同席してもらうように意識しました。実際に現地の方々の楽天に対する期待感や要望に触れてもらうことで、私たちの活動の価値を社内にも実感してもらいました。
また、社内全体を見ても最初の頃とは状況が変わってきました。私たちの活動を見て、徐々に「何だかおもしろそう」と興味を示してくれる人たちが出てきたんです。事業者向け勉強会を「楽天大学」の担当者が手伝ってくれるなど、応援してくれる仲間が少しずつ増えていきました。

自社だけでなく、地域や次世代のために
菅原:社内は変化していったとのことですが、出店店舗の方々はどうでしょう。この10年で変化は見られますか?
塩沢:間違いなく変化しています。
10年、20年前はまず自社の利益のためにECを活用していた方がほとんどでしたが、売上が伸びて会社が成長すると、自社以外のことにも目を向け始めるんですね。その1つに地域があります。自社のためから、地域にどうすれば還元するかを考えるようになっています。事業者であると同時に、その地域の市民でもあるからです。
また、今まで培ってきたECのノウハウを次の世代に還元していこうと考える方々が増えてきたと感じます。私たちとしても、こうして出店店舗の方々と共に歩みを進める中で視野を広げてきました。