「予算の関係で作れない」がなくなる
──極予測AIの活用は御社のビジネスにどのようなメリットや変化を与えていますか?
極予測AIの特徴の1つが「成功報酬」です。従来、お客様からいただく制作費は、稼働人月をベースに算出したものでした。それが、効果のあるバナーが出たときだけ支払っていただく方式になりました。先述のとおり、広告クリエイティブの制作・出稿の効率が上がっていく中で、人月での報酬体系は成り立たなくなっていくので、成果あたりの報酬体系に変えることになりました。
──成功報酬型になることで広告主側および制作側、それぞれにどういったメリットがあるのでしょうか?
広告主からすれば、従来は効果が悪いバナーでも稼働した分の支払いが発生していたので、そのような余計な出費がなくなる点はメリットです。制作側からすると、AIによってデザイナー一人あたりが作る効率が上がっている。そこに人月ではなく成果分の報酬が発生すれば、効率を上げた分だけ利益になります。結果、両社ともに効果が高いクリエイティブを作ることに意識が向くので、本質的な報酬体系だと思います。
制作サイドは多くの広告を作りたいと考えています。現在、バナーをはじめネット広告では、ユーザーが広告に見慣れてしまい反応がなくなってしまう「クリエイティブの疲弊」が非常に早く訪れます。消費者がSNSやコンテンツを猛スピードで消費するのと同時に、広告もササッと消費されてしまう。出し先ごとに多くのクリエイティブを作り続けていく必要があります。広告効果を維持するためには、もっと多く、多様なクリエイティブを制作させてほしいのが本音です。しかし人月ベースの報酬では、「これ以上は支払えません」という上限が来てしまう。AIはそのようなしがらみも解消しているのです。
人間に必要なのはインプットとブラッシュアップ
──AI活用によって業務フローが変化すると、デザイナーが担う役割や必要なスキルセットも変化するかと思います。どういった思考のシフトが必要だとお考えですか?
大きく2つあります。まず、予測AIを使うなら、早い段階で予測をかけるべきです。人間が「イラストがいいかな、商品の素材がいいかな」と迷っている時間を短縮してくれるのが予測AIです。悩むくらいなら自分のアイデアをどんどんAIにかけて、手を動かす時間を増やす活用方法が理想です。
もう1つ重要なのは、新しいツールをいち早く取り入れてみること。たとえば生成AIなら、Stable DiffusionやMidjourneyなどのサービスが出てきています。新しいサービスを「まだこんなもんか」と放っておくのではなく、「こういう使い方なら、この領域で使えるな」といったふうに、自分でツールとして使いこなしていく必要があると思います。
こうしたデザイン手法の変化は、「Photoshop」が登場したときと同じだと感じます。Photoshopの登場以前は、文字や画像を切り貼りしてコピーして、デザインしていたわけですが、そのスタイルは一変しました。パソコンで制作できるようになり、デザイナー人口が増え、一人あたりが作る本数も増えた。今、それと同じことが「AIツール」によって起きていると捉えています。一人の能力を拡張できるのがAIツールです。たとえばイラストを描けないデザイナーでもイラストを含むクリエイティブを短期間で実現できる。
AIがクリエイターを駆逐するとは思いませんが、AIを使いこなすクリエイターが活躍する時代が来るのでは、とは予見しています。

──「迷っているより予測AIを使ったほうがいい」となると、デザイナーの考える力が失われると危惧する意見もあるかと思いますが、いかがでしょうか?
予測AIは何もない状態から「これを作れ」と正解を出してくるわけではありません。予測エンジンにアイデアを当てる必要があります。つまり、元となるアイデアをどれだけ用意できるかが鍵になってきます。アイデアの種を育てるという意味では、従来と同じく、たくさんのクリエイティブやエンターテイメントを見たり、今の社会がどうなっているのかをキャッチアップしたりすることが、引き続き重要かと思います。
言い換えれば、AIを使って業務を効率的に回し、インプットの時間をどれだけ作れるかがポイントになるのではないでしょうか。
──AI活用を考えたとき、今後クリエイティブ制作に関わる人はどういった性質を持っていると、活躍できそうでしょうか?
AIを活用するしないにかかわらず、インターネット上ではフィードバックのループが非常に速くなっています。インターネット広告は、配信した瞬間に評価が出ますから、広告制作においては、速く作って世の中に出し、フィードバックをもらい、速く修正して再び出すといったサイクルが大事です。フィードバックを得て迅速に改善していく能力が重要だと思います。