【特集】「知らなかった」では済まされない、法規制とマーケティング
─ 生成AI活用時の「法的なトラブル」を避けるために知っておくべき観点(本記事)
─ 「ステマ規制」導入で 何が変わる? 企業が押さえるべき ポイントと考え方
─ マーケターが改正電気通信事業法に対応するために必要な3つのステップ
─ ステマ規制のポイント:法令順守と倫理観をセットで考え、判断できるか?
─ ステマ規制のポイント:インフルエンサーを尊重しつつ法抵触のリスクを最低限に!トリコの取り組み
─ 個人データ取得・活用の作法:法令順守の一歩先へ ブランドアセットに紐づく対応を
─ 個人データ取得・活用の作法:「データを提供しても良い」と思ってもらえる体験設計が鍵
─ プラットフォーマーに聞く①多角的に安全で健全な環境を整備し続けるMetaの取り組み
─ プラットフォーマーに聞く②TikTokが取り組み続ける「信頼できる広告環境」作りとは?
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─ 「今まで同様にやっていきたい」という考えを捨てる時。ステマ規制への向き合い方と注意点
AIに関して「ここだけ気をつけておけばOK」はない
――本日は生成AIと法規制の動き、また、それを踏まえて現段階で企業が気をつけるべきポイントをうかがえればと思います。現在、企業からはどのような相談が多いですか?
相談が多いのは、生成AIにおける個人情報や営業秘密などの取り扱いです。プロンプトにどこまでの情報を入力して良いのかなどですね。また、生成にともなう著作権の問題も多いです。AIが作ったものは権利が発生するのか、生成AIを使った際の著作権侵害のリスクといった話ですね。さらに、生成AIに関する社内ルールをどう作れば良いかですとか、生成系AIを組み込んだ独自APIのサービスを提供している企業の場合は、利用規約に関するご相談も多いですね。
――判断基準として法律も関係してくるかと思うのですが、法規制は現在どうなっているのでしょうか?
既存の法の枠組みを生成AIにあてはめたときの解釈について、ガイドラインなどで整理していくのが基本的な日本の方向性です。直ちに新しい法律を作って全面的に新しいルールでやっていきましょう、とはなりません。
もちろん、議論の末に一部の法律の改正が必要だという結論に達する可能性は否定できません。しかし今現在は、個人情報保護法や著作権法などの各法律の枠組みの中で、「普通に考えるとこうだけど、それで良いんだっけ?」と議論し、精緻にしていく流れです。
法律を解釈して対応しているため、まだわからない部分も多くあります。多くの場合、具体的な論点については、当局も論点やあり得る考え方の方向性等を整理しているところであり、このように考えればOKという画一的な考え方が示されているわけではありません。
――では、一般の企業は何を参考にして判断していけば、良いでしょうか?
これ一つだけを見ておけば良いというものがある訳ではなく、色々なソースをみておくべきだと思います。
たとえば内閣府のAI戦略会議の議事録が公開されています。また、個人情報保護委員会からは生成AIサービスの利用に関する注意喚起が出されています。さらに、知的財産に関しては、首相官邸のAI時代の知的財産権検討会の議事録や、文化庁の文化審議会著作権分科会の議事が公開されています。必ずしも、答えや結論が書いてあるわけではないのですが、何がポイントになり得るかや、どんな考え方の方向性があり得るのかを確認できるでしょう。
各省庁の公開情報や弁護士や学者の書籍・論文を参考にして、あるいは弁護士に相談して、自社にとって一番合理的だと思う考え方に従って対応を決めていくことになります。各社の状況に応じて、対応を決めていくことになり、皆が同じ対応になるという訳ではありません。
手探りで社内ルールを作っているのが現状
――専門家の意見も聞きつつ、各社手探りで対策をしているのが現状なのですね。現段階でAIを活用する際に、気をつけたほうが良いポイントはありますか?
社内ルールを作る場合、ディープラーニング協会さんが「生成AIの利用ガイドライン」を公開しているので、参考になると思います。あくまで雛形なので、ガイドラインをそのまま使えば良いというわけではありません。使用しているAIのサービスやポリシーによって、書くことは変わってきます。自社の状況に合ったものにする必要があります、
抽象的なルールならば比較的簡単に作れるでしょうし、保守的にしようとすればするほど、ある意味簡単です。たとえば、個人情報・機密情報は一切入れない、著作物を生成しないとすれば良いからです。それでもAIを活用できる余地はあるとは思いますが、使い道が限定されすぎてしまう。かといって、どの情報を使っていいか、どのような条件なら使っていいかと具体的にしていくほど複雑になります。どこまでルールで定めていくか、各社が試行錯誤しているところです。