異なる顧客層に気づき、転換した江崎グリコ「SUNAO」
MZ:出してみて、想定と異なる顧客に売れたから展開の仕方を変えた、というケースもありますか?
西口:たくさんあります。ある食品メーカーが、糖質や塩分制限が必要なシニア層に向けて宅配弁当を出したところ、「ダイエットにいい」と若い人に売れたため、改めて若い人向けの製品も発売して大きな顧客層を捉えたそうです。
また、こちらは発売後すぐに転換した例ではありませんが、江崎グリコの低カロリーアイス「SUNAO」は糖尿病の患者さんのために「カロリーコントロールアイス」を発売し、その後に「SUNAO」に名称を改めて顧客層を拡大しました。
当初の商品で十数年あまり順調に売れていたのですが、売り上げが伸び悩んだ際、ダイエット目的で買っている顧客層の「カロリーを気にしているようで買いにくい」という気持ちに気づいたのです。そこで名称やデザインを含めてリブランディングし、顧客層の拡大につながったそうです。
MZ:発売後も、ずっと常に顧客の反応を捉えていたからこそ、変えられたのですね。
西口:そうですね。プロダクトが成功するか、売れるかどうかは結果論です。最初の企業の思惑にとらわれすぎず、反応を踏まえて変えていくことが重要です。
今回のテーマ、「顧客ニーズに“どんぴしゃ”で当てられるか」に答えるなら、どんぴしゃの難易度は高いものの不可能ではなく、また最初からどんぴしゃでなくてもすり合わせることはできる、といえます。
顧客の気持ちを洞察し、分析する力は不可欠
MZ:たとえば、一定期間は特定の顧客層に支持されていたプロダクトが、異なる顧客層向けに訴求した場合、既存顧客が離れていってしまうのではないでしょうか?
西口:シニア層と若者向けのように、それぞれへのコミュニケーションがお互いに目に入らなければ、そう問題にはなりません。あるいは元々の顧客が目にしても、嫌悪感を抱かなければ大丈夫です。
ルイ・ヴィトンは2003年、アーティストの村上隆氏とのコラボレーション商品を発売しました。社会的にもニュースになったので、既存顧客の目にも触れたでしょうが、その方々の好感も得られたから、反発よりむしろブランドの弾みとなる企画になったのでしょう。
MZ:では、それぞれの顧客が感じる便益と独自性を分析する力を身に付けるには、どうすればいいのでしょうか。その力がないと、単に「安かったから」とか「近かったから」という理由でしか選ばれず、離反も多くなりそうです。
西口:顧客を洞察する力は簡単に身に付くものではないですが、マーケティングの一番の軸足で、マーケターは必ず習得しないといけません。常に顧客の声に耳を傾け、行動やその背景にある心理を捉えようと努力して、少しずつ養われていきます。
私も20代のころは、自分の思い込みでたくさん失敗してきました。外したら、なぜ外したのか、WHOとWHATの関係を徹底的に振り返る。そこで「この手法が悪かった」などと、HOWに逃げては学びになりません。顧客に何を提案すべきだったかを見極めてこそ、その経験を成長につなげられます。
生まれながらに顧客の気持ちを読み取れる人などいません。あきらめずに毎回をやり切れるかどうかで、優秀なマーケター、ひいては経営者になれるかどうかが決まってくると思います。
西口氏のマーケティング入門連載【第5回】はこちら!
西口氏のマーケティング入門連載【第7回】はこちら!
