「より豊かで持続可能な社会の実現」へ。これからのマーケティングのあり方
河野:新定義は現状の実態を捉えつつ、中長期先の未来も踏まえたものです。「より豊かで持続可能な社会の実現」の部分は、まさに未来に向けたメッセージです。アメリカの経営学者であり、現代のマーケティングに大きな影響を与えているフィリップ・コトラー氏は、「サステナビリティを志向しない企業は5年以内に淘汰される。このことに早く気づかなければいけない」と警告しています。国際社会共通の目標として「持続可能な開発目標(SDGs)」を中核とする『持続可能な開発のための2030アジェンダ』が掲げられているように、2030年に向けて持続可能性を意識する企業が急速に増えています。この傾向は、グローバルに展開しているほど顕著に見られます。
日本企業はというと、CSR の観点から持続可能な社会の実現を考えている企業が多い状況です。そうではなく、ビジネスに結び付けて考えていく必要があるでしょう。ESG 投資が注目されているとおり、投資家も企業がどれくらい持続可能性を持ったビジネスを行っているか、よく見ています。ステークホルダーの関心は一層強くなっていると感じます。
高石:企業の利益の拡大、最大化のためだけでなく、いかに社会に貢献するためにマーケティングを行うのか、自社の商品やサービスが世の中にどれだけ貢献できるのかを考える必要があります。マーケティングの目的は、1企業の利益拡大ではなく「より豊かで持続可能な社会の実現」へと変わっているのではないでしょうか。もちろん、企業にとって利益の追求は重要ですが、それがファーストプライオリティにはならない時代になりつつあるのです。
河野:まさに今、マーケティングのパラダイムシフトが起こっているのだと思います。今、多くのマーケターは生成AIなどのテクノロジーを用いて、顧客のインサイトを見つけ、競争優位性を商品やサービスに反映していくことに関心があるのではと想像します。しかし、商品を売り込んだり、サービスを拡大したりした後、いかにその生活を持続可能で豊かなものにしていくかという視点が不可欠です。
2030年にSDGs を達成するためにはどうすればよいか。2050年までに二酸化炭素など地球温暖化につながるガスの排出量を実質ゼロにするためにはどうすればよいか。逆算して考えていくバックキャスティング思考がマーケティングに求められています。
―― 今回の新定義をもって、マーケターは自分の仕事を再考することになるだろうと思います。
高石:そうですね。今回の新定義が世の中に浸透し、これを達成することこそが自社や自分の使命だという認識が広がっていってほしいと思います。また、それを実現することは、私たちマーケティング協会の存在意義、つまりパーパスでもあります。
河野:新定義が皆さまの企業活動やマーケティング活動、そして社会をよりよくする活動の大きな方向性を示すものになってほしいと思います。