働きたい時間と働いてほしい時間をつなぐ「タイミー」
――最初に、タイミーのビジョンやミッションをお聞かせください。
タイミーは「一人ひとりの時間を豊かに」というビジョンを掲げています。HRテックの会社と位置づけられることもあるのですが、どちらかというと時間を豊かにするサービスを届けたいという気持ちを強く持っており、「働く」にフォーカスしているのは、多くの人にとって24時間のうち多くの時間を占めているからです。
ビジョンを1段階ブレイクダウンしたものがミッションであり、「『はたらく』を通じて人生の可能性を広げるインフラをつくる」ことを目指しています。
これらのビジョンやミッションのもと、「働きたい時間」と「働いて欲しい時間」をマッチングするスキマバイトサービスを展開しています。
2018年にサービスを開始し、現在では47都道府県の求人が掲載されています。直近では働き手であるワーカーさんの累計登録者数は700万人、事業者様は事業所ベースで23万拠点を突破しました。
タイミーはツーサイドプラットフォームです。ワーカーさんにとっては自分に合った仕事を、事業者様にとっては必要な人材を見つけられるようOne to Oneコミュニケーションを目指しています。そのためにはワーカーさんが持つ経験やスキル、そして希望する勤務地が、事業者様が求めていることに合っている必要があります。このバランスが整っていなければ、ワーカーさん側は「タイミーでは仕事が見つからない」、事業者様側は「タイミーに掲載しても、働き手が見つからない」となってしまうでしょう。
いかに両者のバランスを整えていけるかが、私たちマーケティング部門の大きな役割のひとつだと考えています。その手段のひとつとして活用しているのがBrazeです。
Brazeで「セグメンテーション」と「リアルタイム性」の課題を解消
――では、Brazeを導入した背景を教えていただけますか?
私たちに必要な「ニーズに合った細かなセグメンテーション」と「リアルタイム性」の2つをカバーできるのがBrazeでした。
まずセグメンテーションに関しては、以前は都道府県単位で行っていましたが、Braze導入後はより細かく行うことができています。たとえば一口に埼玉県といっても、北部と南部では距離があるため、南部で仕事を探している人に北部の仕事を掲載することは決してベストとはいえません。
求人数が増えると、ワーカーさんにとっては自分に合った仕事を探すことが難しくなります。ワーカーさん一人ひとりに適したものをレコメンドすることはサービスの体験上、非常に重要です。Brazeの活用により、セグメンテーションの粒度の粗さを克服できたと思います。
もうひとつはリアルタイム性です。タイミーが扱っているのはスポットワークのため、当日の昼頃に夕方から働ける人の募集を出す事業者様もいます。Braze導入後は、SQLを書くことなく、即座に条件に見合ったワーカーさんのグループをマーケター自身が抽出できるので、タイムリーな対応が可能になりました。
これら「ニーズに合った細かなセグメンテーション」と「リアルタイム性」の両方をカバーできるようになったことで、よりOne to Oneコミュニケーションの実現に近づいていると感じます。
より質の高いマッチングの実現にBrazeが不可欠
――Brazeを活用した具体的な取り組み例をお聞かせください。
ひとつは、キャンバスフローによるシナリオ配信です。たとえば時間経過に応じて通知を使い分けており、一定期間アプリを開かなかったワーカーさんに対しては一律にプッシュ通知を送っています。現在、通知の約9割はシナリオに基づいて自動で行われています。
また、同一セグメント内でより細かな条件に応じてシナリオ分岐させることができるオーディエンスパス機能も活用しています。たとえば一口に飲食系の仕事といっても、接客が好きな人もいれば、一人で黙々と進めたい人もいます。また「いろいろな職場を体験したい」人もいれば、「一つの職場で腰を据えて働きたい」人もいるでしょう。このような志向性や年代に応じたセグメントを作り、メッセージを出し分けるほか、セグメント別のニーズ分析などを行っています。
そして、アンケートを送り、その回答結果をもとにセグメントを作成するシンプルサーベイを活用することで、特に新規登録されたワーカーさんの仕事歴を把握しています。タイミーを使ったことがなくデータがない人でも、よりニーズに合った仕事を見つけていただくことが可能です。もちろん、このことは求めている人材が来るという意味で事業者様側にもメリットがあるでしょう。
――Braze活用による成果を教えていただけますか?
導入後3ヵ月で求人掲載件数が増加しました。タイミーの導入事業者が増加していることで求人掲載件数も比例して増加していますが、加えてBrazeの導入によりマッチング品質が向上したことで、タイミーで求人を出すことに価値を感じた事業者様が増えたのではないかと考えています。
また、リピート利用するワーカーさんも増加傾向にあります。最初の利用でネガティブな体験をしてしまうと「もうタイミーは使わない」と利用を辞めてしまう可能性もあります。そのような中で繰り返し利用する人が増えているということは、やはりこちらもマッチングに満足している方が多いと考えています。
タイミーの顧客理解を深めるための取り組み
――ここまで話を伺ってきて、Brazeを活用することでマッチングの品質を高めることができているのは、元々タイミーのワーカーさんに対する理解度が高いからなのではないかと感じています。
確かに顧客理解には力を入れています。顧客解像度が上がらなければ、施策が外れる可能性が高くなるからです。仕事として協力してくれるワーカーさんを募ってアンケートやインタビューを実施し、働くことに対する考えやニーズを直接聞いています。CMのメッセージを考える際も、ワーカーさんたちが思っていることをいかに抽出し、反映できるかが重要だと考えています。
このような顧客理解をもとに、様々な機能を追加しています。たとえば2023年10月には、ワーカーさんのスキルや実績を可視化する「バッジ機能」を追加し、これまでタイミー上で良い働きをしてきたと認められた業務がバッジという形で可視化されるようになりました。
タイミーのワーカーさんの中には「(実際にはスキルや経験があるにもかかわらず)履歴書や職務経歴書に書けるようなスキルや経験が思いつかない」ということを発話される方もいました。しかし、どのような方でも培ってきたものはあるはずです。バッジ機能によって、ワーカーさんの「できること」がわかりやすい形で可視化され、それらを履歴書の代わりのようにタイミー上で活用できるようになりました。
また、スキルや実績が可視化されたことで、的確なレコメンデーションも可能になり、より質の高いマッチングにもつながっています。
ユーザー体験の価値と事業価値のバランスを取るために
――ツールを効果的に活用するためには、組織や自社ビジネスに合わせた運用も重要だと思います。タイミーでは、どのようなチーム体制、メンバーがBrazeを活用されていますか?
マーケティング部には「プロダクトマーケティング」「ワーカーマーケティング」「クライアントマーケティング」の3つのグループがあるのですが、Brazeを活用しているチームは「プロダクトマーケティング」の中にあります。
プロダクトマーケティング配下にある理由は、売り上げ拡大を重視する事業価値と、ユーザーへの提供価値を分けて考えなければ統制がとれなくなると考えているためです。ワーカーやクライアントに向けたマーケティングの場合、売り上げを追うことは避けられませんが、そこを重視し過ぎるとユーザー数増加を狙うあまり、頻繁な通知を送ってしまうことになるかもしれません。すると、ユーザー体験を損なう可能性が出てくると考えています。
現在は、営業のリクエストをそのまますべて受け入れるのではなく、「この施策は本当に良いマッチングにつながるのか」という基準のもと、Braze専任チームが配信するかどうかを決定しています。
このように、Braze専任チームをプロダクトマーケティング内に置くことで、ユーザーへの提供価値と売り上げ拡大を目指す事業価値のバランスを取っています。
――「良いマッチングにつながった」とは、どのように評価しているのでしょうか?
何で評価するかは目的によって様々ですが、たとえばワーカーさん向けの満足度調査の結果を見て、ビフォーアフターで、より良い仕事場に出会えたと回答された場合はスコアが上がるようになっています。
広がるスポットワーク市場、価値を先んじて提供し続けていく
――最後に、タイミーの今後の展望と、そこでのBraze活用についてお聞かせください。
今後は休眠されている方や、アプリの起動頻度が低い方へのアプローチを強化したいと考えています。アプリを開いていただくことで始めて、私たちは提供価値を届けることができます。Brazeのオーディエンス連携を利用したSNSなどへの広告配信の最適化を通して、アプリを開かない層へのアプローチを強化していきたいと考えています。
また、細かな時間の調整リクエストをはじめ、ワーカーさんと事業者様のコミュニケーションの柔軟性をより高めるべく、マーケティングテクノロジーを活用していきたいと思います。
「タイミーを開くといいことがある」と思っていただけるようなサービスにしていきたいですね。スポットワークの市場が広がり、参入企業も増えていますが、今後も引き続き、これまでにない提供価値を先んじて世の中に出していきたいと思います。