代理店としてのコアスキルが試される
AIが運用をするようになると広告主もAIを使って自分でやることが多くなります。ただでさえ現状、運用型広告の代理店通しは減っています。元々面倒だったり、マンパワーがなかったりして代理店に頼んでいたことが自分でやれるようになってきているということです。ここにAI登場なので、一気に広告主の直接運用が進むでしょう。
また、コンサルが自社に特化した領域の作業を「AIで手離れしましょう」と入ってくるのも確実です。プラットフォーマーも代理店マージンを払うことなく売上が拡大するのですから、代理店に隠れてこの動きを進めると思います。
運用に頼っていたデジタル系代理店が、AIによって扱いを失うのは目に見えています。広告主から見ると媒体料は同じですが、AIは広告だけでなく企業内の施策と連動して最適化を目指す必要があるので、運用型広告だけを分離して代理店に出すことができなくなると言ったほうがいいでしょう。
デジタル系代理店だけでなく、すべての代理店がこうした状況がすぐ来ることを覚悟しないといけないのです。
筆者はまさにこうした環境変化でエージェンシーがどう新たな価値をつくるかをコンサルする立場です。
当面、AIが人間を駆逐するのではなく、AIを駆使できる人が、できない人を駆逐するのです。皆がAIを使う中、成果がより良い使い方を提供できるか、またそれをどう提案するかなど従来とは質の違う競争が起こります。使い方はすぐ盗むことができます。ブラックボックスにして提供するのかどうか、さらにどんどん進化するAI活用法をどうキャッチアップして対応していくか。すぐには定着したサービス提供ができない可能性が高いと思います。
その意味では小さなAIコンサル会社がどんどん出てきて、機動的に新たなAI活用法を提供するでしょうから競合は意外なところから現れそうです。
デジタル系、というより運用型広告に重心を置いた代理店は、経営環境が劇的に変化します。広告より上流に行けるのはSNSの知見が充実した一部の代理店だけでしょう。運用という技術を広告以外の企業の購買に活用することも有り様としては考えられますが、広告領域でしか入り込めていない代理店では難しいでしょう。このあたりはコンサルのポジションに優位性があります。
さて、デジタルマーケティングが当たり前の世界になった今、デジタル系代理店というポジションにもう強みはありません。
私は今後、テレビとデジタルを合わせても有効な広告枠が減っていくと予測しています。そうなるとリアルな体験をつくることと、SNSで有効なブランドパーセプションをつくる施策が、広告領域では必須となります。いわゆるデジタル系代理店も広告枠のバイイングとそのクリエイティブだけで生き残れなくなるのです。
この状況に運用人財のリスキリングが可能か、そもそも代理店としてのコアスキルにそうした能力があるのかが試されることになるでしょう。

横山隆治事務所(シックス・サイト)代表
横山隆治(よこやま・りゅうじ)氏
1982年に旭通信社(現・ADK)に入社。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム代表取締役副社長、ADKインタラクティブ代表取締役社長、デジタルインテリジェンス代表取締役、トレンダーズ社外取締役などを歴任。インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組む。最新著書に『2030年の広告ビジネス』(翔泳社)。
