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テレビはどう生き残るか~鍵を握る「インプレッション取引」を成功させる仕組みとは~

「インプレッション取引」と「GRP取引」の共存で局収入は最大化する

「インプレッション取引が有効な枠」と収入増を検証する

 前回は1本のCMに対して総量評価でインプレッション取引する例を複数パターン試算しました。今回はスポット1週間分のすべての枠(今回は5,156本)で広告キャンペーンが行える量のインプレッション取引が可能なのかを検証してみます。

 検証を進めていくと、十分に予測はしていたことですが、はっきりと分かってきたことがいくつかあります。たとえば設定TCPMによってはGRP取引のままの方がtotalTCPMは高くなるCM枠があること、また特定セグメントだけでインプレッション取引をして総収入を増やそうとすると非常に高額なTCPMを設定する必要があることなどです。

 この検証ではTCPMを簡素化して、次の6パターンで試算しました。

検証パターン(ターゲットセグメントと設定TCPM)

①MF1:2,000円、MF2:1,500円
②MF1:1,500円、MF2:1,000円
③MF1:3,000円
④F1:5,000円
⑤MF3/MF4:500円
⑥MF1:1,500円、MF2:1,000円、MF3/MF4:500円

※上記以外のセグメントは①〜⑥すべて1円で試算

 まず検証①です。MF1:2,000円/MF2:1,500円でCM1本ずつのtotalTCPMを算出し、インプレッション取引が有効な枠を抽出します。

 有効か否かを区分する基準は、現在の平均CPM335円としました。これ以下の場合はGRP取引をした方が収入は高くなりますので、インプレッション取引の対象枠とはみなしません。結果、インプレッション取引が有効なCM枠は本数ベースで82.7%(4,264本)となりました(図表2)。

 つまり残りの枠(892本)は、設定したTCPMのインプレッション取引では従来のGRP取引でのCM金額を超えられず、そのままGRP取引をしておいた方がいいことになります。

インプレッション取引が有効な枠の検証
【図表2】インプレッション取引が有効な枠の検証。現在のGRP取引での平均CPM335円より高い場合を対象枠として抽出(クリックすると拡大します)

 有効枠をインプレッション数(impベース)で見ると、比率は77.5%です(図表3)。昼間の時間帯にはGRP取引のままの方が高い収入を維持できるCM枠が存在します。もちろん、この残り枠だけで今まで通りのGRP取引は成立しないのでしょうが、一旦試算上はそうなります。

 最終的な1週間のスポット収入額は141%、金額にして約6.8億円の増収となりました。そして検証①においては、GRP取引とインプレッション取引を共存させることができれば、増収額がさらに少しプラスになります(+1,700万円程度)。

インプレッション取引が有効な枠の検証
【図表3】インプレッション取引が有効な枠の検証。現在のGRP取引での平均CPM335円より高い場合を対象枠として抽出(クリックすると拡大します)

 検証②は、検証①と同じターゲットでTCPMを少し低めに設定しました。MF1:1,500円/MF2:1,000円です。この場合、有効な枠は本数ベースで58.2%、impベースで50.6%でした。

 このように有効枠が半分程度となってしまう場合、すべての枠をこのTCPM設定でインプレッション取引してしまうと、すべてをGRP取引する時よりも総収入はマイナスとなります。これでは全く意味がありません。

 検証②では、GRP取引と合わせてセールスすることで初めて収入増が見込めます。収入額で110%、約1.6億円の増額でした。

 次に検証③と検証④です。TCPMは検証③がMF1に3,000円、検証④はF1のみに5,000円としています。それぞれ若者層向けにTCPMを一つだけ設定していますが、このTCPMでは③④ともにインプレッション取引が有効な枠は半数程度となりました。やはりGRP取引との共存が必要そうです。

 もちろん、もっと高くTCPMを設定すれば有効枠も、総収入試算も増えていきますが、それらのすべての枠をそのTCPMで実際に売り切れるかどうかは別問題です。

 結果、収入試算は検証③、④ともに113%、増額は約2.1億円となりました。

 高齢層ターゲットを想定した検証⑤です(図表4)。インプレッション取引の発想は、どうしても広告主からの要望が多いMF1やMF2層へのターゲット効率を上げる、あるいはそれらを高単価で取引してもらうことに目が向いてしまいがちです。

 しかし、高齢層が欲しい広告主のターゲット効率も上げるインプレッション取引を局として採用することは「若者層に効率的な枠を空ける」ということにもなります。したがって、これだけで収入増を目指さなくてもよいでしょう。とはいえ、TCPM500円程度でMF3/MF4をインプレッション取引できれば、通常のGRP取引と合わせ収入は111%、2億円弱の増収は目指せます。ただし、有効な枠は本数ベースで約4割弱と少なめです。

高齢層ターゲットに対してインプレッション取引が有効な枠を検証した結果
【図表4】高齢層ターゲットに対してインプレッション取引が有効な枠を検証した結果。MF3/MF4のTCPM500円で設定(クリックすると拡大します)

 最終的には、若者層と高齢層も一緒にインプレッション取引することが最も有効枠が増し、より収入増も期待できます。検証⑥では若者層をMF1:1,500円、MF2:1,000円、高齢層をMF3/MF4:500円として、それぞれの広告キャンペーンが最大限並走した場合の試算です。ほぼすべての枠が対象となり収入額は121%、約3.5億円の増収となります。

 検証②⑤だけよりも、組み合わせることで総収入はさらに増額します。インプレッション取引が有効な枠と収入増の各検証結果をまとめたものが以下の図表5となります。

インプレッション取引が有効な枠と収入増の検証まとめ
【図表5】インプレッション取引が有効な枠と収入増の検証まとめ。簡素化した6つのTCPMでの試算(クリックすると拡大します)

 インプレッション取引は特定セグメントだけに向けて行うよりも、複数の広告キャンペーンを取り込んでいくことでより大きな期待が持てます。そしてGRP取引と共存することで、テレビ局の広告収入は最大化します

次のページ
「インプレッション取引」の導入は広告主にもメリットがあるのか?

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テレビはどう生き残るか~鍵を握る「インプレッション取引」を成功させる仕組みとは~連載記事一覧

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この記事の著者

横山 隆治(ヨコヤマ リュウジ)

横山隆治事務所 代表取締役
ベストインクラスプロデューサーズ 取締役 ファウンダー
トレンダーズ 社外取締役

1982年青山学院大学文学部英米文学科卒業。同年、旭通信社(現・アサツー ディ・ケイ/略称:ADK)に入社。インターネット広告がまだ体系化されていなかった1996年に、日本国内でメディアレップ事業を行う専門...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

楳田 良輝(ウメダ ヨシテル)

株式会社プログラマティカ 代表取締役社長

関西学院大学卒。広告会社で営業部門を経験後、経営及び人事部門でデジタル領域への投資・事業戦略や組織・制度変革等を担務する。メディア部門を担当後、デジタルエージェンシーを経てコンサルティング会社に経営参加。大手広告主に対するマーケティング・コンサルティング業務等に従事する...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/08/26 15:25 https://markezine.jp/article/detail/46178

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