高齢者マーケティングはこれからが本番
今回紹介する書籍は『「シニア」でくくるな! "壁"は年齢ではなくデジタル』(日経BP)。著者の原田曜平氏は、マーケティングアナリスト/芝浦工業大学デザイン工学部教授を務め、マーケティングにおける世代論に精通。「さとり世代」という言葉を生み出しZ世代研究に取り組んでいる同氏が、シニア世代についてマーケティングの観点で論じた書籍となります。
著者によれば、「今後20年が高齢者マーケティングの“黄金期”」だといいます。これから、2024年現在75歳以降になりつつある「団塊の世代」に加え、高度経済成長期に育った「新人類世代」や昭和末期の好景気を若い頃に経験した「バブル世代」といった消費意欲の高い層が、続々と高齢者市場に参入。日本の高齢者マーケティングはここからが本番の時代に入るのです。
また総務省の「2023年家計調査」によると、世帯主の年齢別家計消費支出の割合では約5割を60歳以上が占めており、「消費割合でも高齢者は主要プレーヤーに躍り出ているのが実態」と著者は指摘しました。加えて、高齢者の就業増による年間収入増加も、消費の活発化を後押しすると見られます。
このように、高齢者マーケティングは注目が高まる一方で、著者は気を付けるべきポイントとして「高齢者をひとくくりにしない」ことを提唱。「アクティブシニア」のように、60代も70代も80代も同じセグメントとして扱ったマーケティングは避けるべきだと述べました。では、現在の高齢者の実態はどのようなもので、彼らを理解し適切なマーケティング施策に落とし込むにはどうすべきなのでしょうか。
調査で見えた、デジタル高齢者の姿
本書では、60代以上の高齢者640名を対象にインターネット調査と聞き取り調査を組み合わせた実態調査を実施。非デジタル活用者層も含めた、高齢者の生活やインサイト、メディア利用状況などを明らかにしました。
調査の結果、パソコンやスマートフォンを日常的に活用している「デジタル高齢者」の存在が浮き彫りに。全体平均と比べて人付き合いが多く、旅行やスポーツなどアクティブな外出を行い、生活満足度も高い傾向にありました。
デジタル高齢者の定義:
パソコンやスマホ、タブレットのいずれかを自分専用で保有する人
著者は彼らを上記のように定義し、このような令和のアクティブシニアといえる「デジタル高齢者」こそが、高齢者マーケティングで狙うべき層だと提唱。人間関係係数が多く、外出頻度の高い彼らは消費機会にも恵まれています。加えて、市場規模で見ても2,222万人以上の「デジタル高齢者」が存在すると推計されます。
令和シニアの4人に1人がYouTubeを活用
調査では、高齢者のメディア利用についても実態を明らかにしています。「LINE」の利用率は約4割となり、推定で1,721万人の高齢者が使用しています。さらに特筆すべき点として、著者は「YouTube」の利用状況を挙げました。
調査によれば、高齢者のYouTube利用率は25.7%となり、推定利用人口は1,120万人。高齢者の4人に1人が使うメディアとなっています。主な利用時間帯は20~23時で、若者と同じように夜にYouTubeを楽しむ高齢者が多く存在することがわかりました。
さらにYouTubeを活用する高齢者は、インフルエンサーなど「人」起点ではなく、自分の好みの「ジャンル」から検索し、コンテンツを視聴する傾向が強いというデータも。YouTubeを活用した高齢者マーケティングにおいては、インフルエンサーを起用したPRよりも、「音楽」「ゴルフ」「釣り」といったジャンルに絞った広告出稿などの施策が有効だと著者は提言しました。
本書では、7つの世代別に見るインサイト・消費実態と時代背景や、8パターンのペルソナごとの高齢者へのアプローチ方法などを解説。さらに実際の企業事例も紹介しており、令和のシニアマーケティングにおけるポイントが詰まった一冊です。「デジタル高齢者」市場を開拓したい方やシニア向け施策を効果的に行いたいマーケターは、ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。