「5つの戦略」の背景/NTTコミュニケーションズが抱えていた課題
MarkeZine:では、戦略策定~実行の前提になる部分として、エンタープライズ領域で直面していた事業課題についてご説明いただけますか?
戸松:まず、エンタープライズ領域のマーケティングは、既に強いパイプとエンゲージメントのある企業に対する「顧客深耕」と、まだ関係が浅い企業に対する「顧客開拓」の2層に分かれます。
前者では、既存のインフラサービスを基盤としつつ、新しい事業を共に創出していくことを目指しており、後者では私たちのサービスを十分に理解していただくため、従来型のICTサービスの提案に注力しています。そんな中で、我々が直面している課題は大きく5つありました。
課題1:中長期的戦略の欠如
1つ目の課題は、中長期的戦略の欠如です。短期的な収益目標にとらわれると、どうしても中長期的な戦略を立てる時間や労力が不足してしまいます。マーケティングはセールスと連動しているため、利益を出さなければならないという意識から、どうしても目先のことに捉われがちですよね。NTTコミュニケーションズも例外ではなく、中長期的な視点を補強する必要がありました。
課題2:顧客企業のLine of Business(LOB)とのつながり不足
これまで当社の営業担当が関係を築いてきたのは、顧客企業の総務部や情報システム部などIT関連部署の方々でした。しかし、最近、IT投資の主体は、経営企画や開発、マーケティング部門などLine of Business(LOB)の方々になっています。LOBの方々との関係をいかに構築していくかも大きな課題です。
課題3:「顧客開拓」が後回しになってしまう
先ほど、基本のマーケティング戦略は「顧客深耕」と「顧客開拓」の2層に分けて展開しているとお伝えしました。しかし実際のところ、営業担当者は既存の大口顧客に注力する傾向があり、「顧客開拓」がおろそかになりがちです。このような状況が続くと、ポテンシャルユーザーを獲得できない可能性が高まるため、「顧客開拓」が進む仕組み作りも必要でした。
課題4:営業スキルの属人化
4つ目以降の課題は、組織・人材の育成強化に関するものです。NTTグループの社員は、日本の人口構造を反映するかのように、高齢層から若手へと徐々に人数が減少していく構成になっています。かつては、とにかく営業経験を積めばスキルが鍛えられる側面もありましたが、近年は営業担当者の属人的なスキルに依存するのでは不十分になってきています。
課題5:人材育成の課題
最後に、当社の営業担当者の特徴として、全く異なるスキルセットを求められることがあります。
たとえば、顧客と事業を共創するような高度なコンサルティングスキルが求められる場合もあれば、新規開拓をサイエンティフィックなアプローチで進めていくスキルも必要とされます。当然、これらのスキルが自然に身についていくことを期待するのは現実的ではありませんよね。そのため、人事戦略や育成戦略にも取り組んでいく必要がありました。