メディア環境の変化に合わせて、視聴率以外でもコンテンツを評価
MarkeZine編集部(以下、MZ):まず、テレビ業界の現状をどのように捉えているか教えてください。
田村:コンテンツの種類や視聴形態が多様化しているので、その変化に適応していくことが重要だと感じています。これまでテレビデバイスといえば地上波放送(以下、地上波)の視聴が主でしたが、現在は様々なコンテンツが視聴できます。
一方、地上波の視聴方法もテレビデバイスに限らなくなっています。スマートフォンなどのモバイル端末で視聴できるようになっているためです。そのような状況下で、デバイス問わずテレビ局のコンテンツを見てもらい、好きになってもらうべく、地上波のリアルタイム視聴率以外にもコンテンツの評価軸を広げる取り組みを始めています。
MZ:コンテンツを評価する指標は多くある中、テレビ東京ではREVISIOが提供する注視データを活用していると伺いました。注視データの活用に至った背景を教えてください。
田村:「この番組のこと、好きな人多いよね」といった感覚は、主観的な感触としては把握できるものの、それを客観的な数字として社内外に示すことは難しいものでした。そこで当社では、コンテンツの評価軸を広げる具体的な取り組みとして、2024年に社内向け指標「コンテンツパフォーマンススコア(コンパス)」を設計。TVerやU-NEXTなど配信での視聴人数、番組好意度、X話題量、その他複数指標と並んで、REVISIOさんが提供する「注視データ」を指標の一つとして採用しました。これらの指標を活用して番組を分析し、その結果をコンテンツ編成部や制作現場にフィードバックしています。
「注視データ」の活用でコンテンツのパワーを計測
桑原:他局と比較して番組制作予算が少ないけれど、エッジの効いた企画で“コアなファンに見ていただいている”というのがテレビ東京の特長です。REVISIOさんの注視データをはじめとした視聴率以外の評価指標を導入することで、番組がしっかりと届いているかという視聴の質も検証して、強みを伸ばしていきたいと考えました。
北川:複数の種類がある注視データのうち、テレ東さんには「注目度」などを活用いただいています。この指標は、テレビの前にいる人のうちテレビ画面に視線を向けている人の割合を表すもので、コンテンツに対する視聴者の「興味・関心」の度合いを把握することができます。
たとえばテレビの前にいる100人の視聴者のうち、70人が画面を注視している場合の注目度は70%です。現在、関東と関西の計2,600世帯ほど(約6,500人)にご協力いただきデータを取得しています。
北川:この指標の特長は「ながら見」がカウントされない仕組みになっている点です。視聴者がスマートフォンの操作など他のことをしながらテレビを見ている場合は注目度として計上されないため、番組に集中している視聴者のみの測定が可能です。このように注目度は、視聴率だけでは把握が難しい「コンテンツのパワー」を測定するための指標として活用できます。
番組&CMの惹きの強さをデータで証明
MZ:放送局として注目度を活用して感じたメリットを教えてください。
桑原:対社内ではコンテンツごとの惹きの強さをデータで定期検診できるようになった点が挙げられます。一方、対社外では、広告主様に対してテレビCMの提案を行う際に、強みを示してアピールできる“推しデータ”として活用できるようになりました。今回、番組部分ではなくテレビCM部分の注目度についても調査してみたのですが、高い数値が出る傾向がありました。
桑原:たとえば、「家、ついて行ってイイですか?」におけるテレビCMの注目度を、ゴールデン帯における他4局の平均と比較してみたところ、他4局のゴールデン帯番組平均が53.6%だったのに対し、当該番組はそれを1.05倍上回る56.1%となりました。
また、最近新たに取り組んだ“クイズ形式”のテレビCMの注目度も調査。その結果、注目度は64.5%となり、他4局のゴールデン帯番組平均を1.2倍上回る結果になり、企画が効果をもたらしたことが明らかになりました。
さらに、1社提供のミニ枠番組でも同様の効果が見られました。他4局のゴールデン帯のミニ枠番組平均が54.2%であるのに対して、テレビ東京のゴールデン帯のミニ枠番組は54.6%とわずかながら上回る結果に。その中でも特に歴史が長いアフラック様1社提供の「生きるを伝える」は59.1%を記録し、高い注目度を獲得できていることが確認できました。
デジタルとテレビの適切な組み合わせがリーチ拡大につながる
MZ:テレビ業界の現状としてお話いただいたメディア環境の変化は、テレビCMの出稿状況にも影響しているのでしょうか?
桑原:はい、メディア環境の変化にともない広告出稿の選択肢も多様化しており、デジタル広告のようなターゲティングや効果計測がしやすい媒体に多くの企業が出稿しています。
一方、デジタル媒体と比較して、地上波は依然として強力なリーチ力をもっていることは認識する必要があると思います。たとえば、YouTubeの同時接続数の日本記録は今のところ約200万人(※1)と言われていますが、これはテレビの個人全体・全国視聴率の1.7%(※2)と同規模です。テレビの視聴率は分単位での集計なので、厳密には同時接続とは少々異なるとは言え、視聴率1.7%を超える規模のテレビ番組は日常的に数多く放送されています。
「料金が高い」というイメージを持たれがちな地上波テレビのCMですが、個人全体のリーチ単価でみると決して高くなく、潜在層含めて広くリーチしたい場合は案外コスパの良い選択肢と言えるのではないでしょうか。
※1:テレビ東京調べ(2024年時点)
※2:ビデオリサーチ「2024年度 調査エリア内推定世帯数及び人口」より推計
北川:私も日々の広告主様との対話を通して、YouTubeやTVer、ABEMAなどの新しいメディアプラットフォームへの期待は確実に高まっているものの地上波の影響力は依然として健在だと感じます。
事実、多くの広告主様は地上波テレビが依然として強いリーチ力を有していると認識しており、認知拡大を目指すための選択肢として地上波テレビは必ず挙がっています。
MZ:そうすると、広告主はメディアプランニングを行う上で、地上波とインターネット配信などのリーチ力をフラットに評価することが大切だということですね。
桑原:まさにその通りです。テレビCMとデジタル広告は、それぞれ異なる特性と効果をもっています。各媒体の特性とリーチ力を正しく理解し適切に組み合わせることで、より効果的なマーケティングが展開できるようになるでしょう。
これまで明確な数値把握が難しかった「テレビCMの効果」も、最近はパートナー各社様のお陰で可視化できるようになりましたね。
注目度の活用で、広告主にとって高コスパな広告運用が可能に
MZ:テレビ東京への支援を通して得られた気づきがあれば教えてください。
北川:テレビ東京のコンテンツの質の高さが、CMの注視の高さにもつながっていることがわかり、それを客観的に示せた点で注視データはコンテンツの価値や広告効果を測る上で有用な指標であると改めて実感しました。先述の通り、テレビはリーチ力も非常に高い媒体ですので、このような測定手法を使いこなすことで広告主は高コスパな広告運用が行えるでしょう。
加えて、「注視」と「CM認知」の間には相関関係があることが判明しています。つまりテレビ東京様のように、「番組の注目度」を向上させるための取り組みを放送局側が行うことは、“広告媒体としてのテレビの価値”が上がることにもつながると考えられるのです。
テレビは“リビングに設置されたビジョン”
MZ:今後の展望を教えてください。
田村:近年は放送業界でもデータが重視され注目を集めるようになっており、大きな転換期を迎えています。当社でもデータを活用して「視聴者の皆様により良いコンテンツを提供すること」と「広告主の皆様の広告効果を高めていくこと」を目指します。
桑原:最近、電車・ビル・タクシー・エレベーター・店頭など、街中の様々な場所でデジタルサイネージによる映像広告が展開されており、ビジョン広告の市場は著しい成長を見せています。そのような中で、テレビデバイスは“リビングに設置されたビジョン”とも言え、広告媒体として見ると「音付き×リラックス空間×共視聴」で広告を流せる点は大きな強みだと考えています。その強みを意識しつつ、今後も注視いただけるコンテンツおよび広告を提供していきたいです。
北川:繰り返しとなりますが、地上波の媒体としての価値は現在も非常に高いです。この価値をさらに向上させるために、引き続き注視データという視点から、テレビ東京様をはじめ放送局様をサポートしていこうと思います。また、REVISIOでは現在、CTVの視聴データも取得しています。地上波という視点だけでなく「テレビデバイスとしての価値」を多くの広告主様に提供していきたいです。
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