認知がなくとも、いかに「熱量ある一人の応募」を獲得するか
━━LayerXという会社と、石黒さんの立場について教えてください。石黒さんは、人事と広報の両方を見ているのが特徴ですよね。
LayerXは「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに、複数の事業を手掛けているスタートアップ企業です。現在は三つの事業を展開していて、法人支出管理や人的資源管理などの業務効率化AI-SaaS「バクラク」事業と、Fintech事業、AI・LLM事業になります。
今は360人ほどのメンバーがいる当社ですが、私が入社した2020年5月当時は、まだ会社全体で28人ほどの規模。エンジニアや事業を見るメンバーが25人と、コーポレート業務を担当するメンバーが3人の状況でした。その頃は広報も外部委託だったので、私が人事と広報の両方を担当することになったのです。
株式会社LayerX
CCO(Chief Communication Officer)
石黒卓弥氏株式会社NTTドコモに新卒入社後、マーケティングのほか、営業・採用育成・人事制度を担当。また、事業会社の立ち上げや新規事業開発なども手掛ける。2015年1月、当時まだ60名だった株式会社メルカリに入社し人事部門を立ち上げ、5年で1800名規模までの組織拡大を牽引。採用広報や国内外の採用をメインとし、人材育成・組織開発・アナリティクスなど幅広い人事機能を歴任。2020年5月、株式会社LayerXに参画。人事と広報領域を担当している。
━━それからは、いわゆる「採用広報」の役割をされていますね。人事と広報をセットで見ること、そして当時はまだ馴染みのなかった「採用広報」という役割を担うことに戸惑いはありませんでしたか。
それはなかったですね。というのも、私は前職がメルカリで、現取締役会長の小泉文明さんが「採用広報」といった言葉を早くから使いはじめていました。なので戸惑いはなく、むしろ「人事と広報を一緒にやらないと大変だろう」とさえ思っていました。
なぜなら、採用活動は「どうやって会社のことを知ってもらうか」に尽きるからです。認知度の高い会社に行きたい人が多いのは当然ですし、認知が上がることで採用が加速します。
メルカリも今でこそ国民的サービスですが、私が同社に入社した2015年は、まだ現在のような認知はありませんでした。そのため、いかに「熱量ある一人の応募」を獲得していくか、その一人に刺さる発信をしなければならなかったんです。
また、この10年、20年を見ると、個人の価値観による意思決定が尊重される社会になってきました。その中で「この会社に入りたい」と思ってもらうためには、企業が積極的に情報を届けて、共感してもらう広報活動が必要だと感じています。
SNSは“一つの生存戦略” 感謝とフィードバックを重要視
━━LayerXの特徴である「全員広報」の文化が気になっています。採用ページを見ても、noteからPodcast、connpass、エンジニアブログなど、本当に沢山のコンテンツが並んでいますよね。こういった文化をどう醸成していったのでしょう?
基本的には「やりたい人がやる」スタンスで、こちらから社員に強く「発信してください」と言うことはありません。
私がLayerXに入社した頃の会社規模では、何も言わなくてもSNSをはじめる社員が多かったです。なぜなら、何かを発信しないと会社の認知度が上がりませんから。SNSはスタートアップにとって一つの生存戦略であり、数少ない“使える武器”。そこでリスクを避けるよりは、認知の拡大を優先したのだと思います。
問題は会社の規模が100人、200人と大きくなったときですね。社員が増えても「みんなが発信する文化」を維持し続けられるかは、なかなか難しいと感じます。
━━LayerXではそれを維持し続けていますね。何か秘訣はありますか?
私たちが大切にしたのは、発信してくれた人への感謝です。同時に「タイトルをこうするとさらに読まれると思うよ」といったサポートをしています。
あわせて当社で行ったのは、発信の場を作ることでした。たとえば2021年10〜12月には、初めてのアドベンドカレンダー(アドカレ)を実施しましたね。以降も、3〜4月、6〜7月と開催しています。アドカレは12月に実施する会社が多いので、あえて違う時期に行って、読まれる確率を高めています。