常に危機感をもっている
有園:今田さんは家業が出版社で、1990年代には「WIRED」日本版の立ち上げも経験されています。そういった経験が、インターネットメディアの経営につながっているのですね。長年、テクノロジーの変化を見ながら仕事をしてきて、好調なときもあれば、苦しいなと感じたときもあったのではないですか。
今田:危機感は常にありますね。新しいテクノロジーを活用したコンテンツも、世の中に普及するタイミングが来ていないとうまくいきませんが、逆にそのタイミングを逃すと後れを取ってしまう。難しいです。うまくいかずに消えてしまったビジネスも山ほど見てきました。
巨大IT企業のドミナントが強まる中で、丁寧にコンテンツを作っているパブリッシャーの人たちがどうやって生き残っていくか。15年ほど前から、それが課題だと感じていました。海外と比べると、日本のパブリッシャーのデジタル化は遅く、危機感がありました。
その後、ようやくパブリッシャーのデジタル化が進んできましたが、コロナ禍を経て、よりプラットフォーマーへの依存度が高まり、マネタイズがまた遠のいたのが現状です。新たな崖に直面しています。振り返ると、「これで安泰だ」と思ったことはまったくないですね。

メディアとしての不変の責務とは
有園:2019年ごろから新しいSNSなども台頭し、メディアへの流入経路がより多様化しました。さらに、サードパーティクッキーが使えなくなってきて、ターゲティングの精度も落ちています。
今田:さらに、運用型広告への依存度が高くなりました。本来であれば、プラットフォーマーがコンテンツを確保するために、コンテンツを作っている企業などに一定額を落とすような仕組みが必要です。しかし、日本ではそれがなされておらず、パブリッシャーにとっては危機的状況だと考えています。
そういう状況で、当社は収益の分散化、多様化のために様々なことに取り組んでいます。それでも、一つ一つの規模が小さければ、スケールメリットは生まれません。そう考えると、質と量を両方担保できるような取り組みが必要です。
メディアが連携してデジタル広告の品質改善を目指す「クオリティメディアコンソーシアム」など、ネットワークを作る動きもあります。一方、自分たちがどう生き残っていくか、個別で考えていくことも必要です。
有園:今田さんは「メディア企業としての不変の責務として、常に『Authentic(誠実で本質的)』であることを掲げてきた」と話していて、それが印象的です。
今田:ずっと言ってきた言葉です。言い続けないと、いつでも道を踏み外す可能性があると思っているからです。
インターネットメディアの業界は、プロではない人も情報を発信できます。真面目にやることがばからしく思えることもあるかもしれませんが、そう思ったとたん、メディアとしての価値はなくなります。それをどのように理解してやっていくかが重要です。