AIO登場で変わる検索行動
従来型のオンラインにおける購買行動は検索エンジンでキーワードを入力して、目に付いたサイトないで情報を詳しく確認して、購入するという流れだった。言い換えれば、SEOマーケティングは、検索エンジンから集客をして自社ページで訴求し購買につなげるのがセオリーだった。しかし「生成AIが普及していく中で検索マーケティングに変化が起きている」と平氏は語る。

その代表がGoogleの「AI Overview」という機能(以下、AIO)だ。Googleの検索結果上部に表示されるようになった「AIによる概要」と言うとイメージしやすいだろう。
従来、Googleの検索結果で上位に表示されるのは、オーガニック検索とリスティング広告だった。しかし、現在は一番上にAIOの回答が表示されることが多い。事実上の検索1位がAIOに置き換わり、その下に広告が出てきて、さらにその下にオーガニック検索による検索1位がようやく表示される。また、AIOの回答には検索行動で知りたい内容自体が表示されていることも多い。

Googleからは「18歳〜24歳の若い利用者は「AIによる概要」を検索で活用することでエンゲージメントがさらに高まる」という調査報告も公開されている。検索結果から自社のページに誘導し、顧客をナーチャリングするというマーケティング手法やSEOが、AIOによって大きく揺らぎ始めているのだ。そして、変化はじわじわと数字にも現れ始めているという。
さらに、AIOの登場によって大きな影響を受けたのが「情報探索系クエリ」だ。潜在キーワードから、顕在キーワードへとナーチャリングする流れが崩れ始めている。たとえば従来は「プリンター 勘定科目」「相殺 領収書 印紙」といった潜在キーワードでGoogle検索をすると、潜在顧客の知りたい情報が掲載されたオウンドメディアの記事がヒットし、そこで最後にホワイトペーパーのダウンロードといったコンバージョンへつなげていた。しかし、今はAIOの回答に知りたい情報が出てくるようになった。

つまり、AIOの登場によって認知・興味・検討・行動といった階層で構成されたマーケティングファネルにおける認知と興味の検索流入に変化が起こりつつあるのだ。
AI検索エンジンの登場
Google検索だけでなく、AI機能を搭載した「AI検索エンジン」の登場も注視する必要がある。ChatGPTでは、Deep Researchという高度な検索をサポートする新機能が提供され、ChatGPTの中でWeb検索や詳細なリサーチができるようになった。
たとえば「経費計算するソフトを導入したいので、うちにおすすめのソフトを探して」といったプロンプトを入力し「検索」ボタンをクリックすると、参照元のWebページとともに具体的なソフト名と、その解説を含めた回答が表示される。さらに「11名の利用で、一番費用が安いのはどれ?」といった条件を追加すれば、最適なソフト名を絞り込んでいくこともできる。
従来は最適な回答にたどり着くまでに、自ら検索をして様々な情報を収集する必要があったが、今後は生成AIに尋ねるだけで検索の目的を達成できるようになる可能性が高い。また、GoogleのGeminiも検索・リサーチ機能を統合しており、同様の機能を提供し始めている。その他にも、Perplexityをはじめとした検索に特化したチャット型生成AIの存在も無視できない。
次世代SEO=AIに対する最適化
AGIも購買行動に影響を与えると考えられる。AGIとは、AIがエージェントとなってすべての作業をサポートする機能だ。Open AI社はAIエージェントの「Operator」というAGIプロダクトを先日リリースした。
Operatorは、たとえば「評判が良く、2万円以内で、iPhoneと相性の良いノイズキャンセリングイヤホンを探して」と伝えると、自らブラウザを開いて検索をし、様々なページの中から、候補になる商品情報を集め、予算内の商品を探し出す。そして、ユーザーが購入したい意思を伝えると商品のカートインから、購入者情報やクレジットカードの入力、購入手続きまでを行ってくれる。

今後は、「渋谷で4名のレストランを予約しておいて」「来月福岡に行くので一番安い航空券を予約して」といった指示を出せば、AGIがすべての手続きを完了してくれるという購買行動が当たり前の世界になってくるかもしれない。さらに、Amazonも2025年2月にアレクサに生成AIを搭載すると発表し、こうした変化が加速される可能性が高まっている。
AGIが普及し、AIがサービスとユーザーを直接つなぐ時代になれば、人間が自ら検索をして情報を集め比較し購入する流れは減少するだろう。加えて、商品やサービス、ブランドを知ってもらうための消費者との最初の接点もAIになると考えられる。
「このような時代において、WebやSEOの役割は『コネクションハブ最適化』に変わります。いかに最適にAGIとつながるかが、次世代SEOではないでしょうか」と平氏は見解を示す。
変化に備え、対応を少しずつ始めるタイミング
では、AIに対する最適化とは何をすればいいのか? たとえば既に「LLMs.txt」という手法が存在する。これは、SEOにおける「robots.txt」に該当する手法だ。robots.txtが検索エンジンへどのページをクロールするか指示するファイルであるのに対し、LLMs.txtはAIがサイトをより理解するために、コンテンツの構造やナビゲーション情報を整理して提供するファイルだ。
ここまでの説明を受けると、急いで対策をしなければならないと焦る気持ちが生まれるだろう。だが、今考えるべきは対策の道筋だと平氏は見解を示す。なぜなら、現時点でのAI検索からサイトへの流入は多くて1%程度。AI検索が浸透するにはもう少し時間がかかると予想される。

「今すぐに大規模な対策を講じる必要はありません。しかし、マーケティングにおける消費者の行動変容にも少なからず影響してくるのは時間の問題です。今のうちから、どう対応していくのかを考えておくことが大切です」(平氏)
そのためには、AIによる消費者購買行動の変容に関して、2025年に起こることと今後3年以内に起こることを予想し、それぞれの対策を考えることが重要だと平氏は続ける
2025年に起こる変化と対策
まずは2025年の変化と対策から考えたい。「2025年は参入領域の見極めが重要になる」と平氏は語る。
たとえば「確定申告 期限」「英語 単語帳 おすすめ」「トマトソース 作り方」といった検索で求められているのは、誰が提供しても大きな差がない標準的な情報だ。これはAIで済む領域である。
一方で、「新築マンション 購入 トラブル」「起業 成功」「子供 集中力がない 10歳」といった検索では、専門家による見解や個人の体験談、経験に基づくノウハウが求められている。これらの情報はAIに代替されない領域として強い訴求が期待できるコンテンツであり、購買行動においてもより重要性が増していくと考えられる。
Googleはこうした情報提供を経験(Experience)、専門性(Expertise)、権威性(Authoritativeness)、信頼性(Trustworthiness)の頭文字をとって「EEAT」と定義し、AIの時代においても重要視することを公にしている。
AIが得意・最適な領域外で自社の強みを活かせる訴求力の高いコンテンツを準備し、自社コンテンツを見てもらう明確な理由作りをしていく必要がある。

もう一つ実行したい対策が「AI SEO」だ。Googleは、「AIOに含まれるリンクは、そのクエリに対して従来のWebリスティングとしてページが表示された場合よりも、より多くのクリックを獲得している」と発表している。このAIOのリンクへ自社サイトをいかに表示させるかがAI SEOだ。
そのためには、顧客接点の多様化に対応していく必要がある。顧客との接点は他にもYouTube、メールマガジン、SNS、広告など多様化している。様々な接点でのコミュニケーションを通して、選ばれるブランドや製品になるための準備をしていく必要がある。
顧客接点を増やすには工数もコストもかかると考えがちだ。しかし、生成AIを活用すれば様々なフォーマットのクリエイティブを制作することが可能だ。
今後3年以内に「検索」以外の対策を
今後3年以内に対策しておきたい事項は3つある。1つ目は「第一想起ブランドの確立と維持」だ。これは以前からも重要な施策だが、AI時代でも変わらない。キーワード検索をするまでもなく、なんとなく知っていたから・最初に浮かんだからという理由で問い合わせにつながるケースは多い。いかに第一想起ブランドのポジションを確立するかが、今後より重要となる。
2つ目は「代名詞的なチャネルの確立」だ。現在、YouTubeをはじめとした動画コンテンツやSNSアカウントは、マーケティングにおいて非常に大きな影響を持ち始めている。自社ブランドの代名詞となるチャネルを確立していくことも、非常に重要な施策の1つになってくる。現在そのようなチャネルを持っていない場合は、顧客との接点として重要な起点となるチャネルを確立する必要がある。
3つ目は「AIに選ばれるサイト、ブランドの確立」だ。従来は人間による購買行動が前提となっていたが、AIに置き換わる可能性が高い。そうなると、AIに自社のサイトを選んでもらう、AIを経由していかに消費者に商品・サービス・ブランドを見せていくかが重要になってくる。
AI時代のマーケティングは総合戦
講演の最後に平氏は「AI検索の登場によって、デジタルマーケティングは総合戦の様相を呈してきました」と語り、SEO偏重からの脱却の重要性を解く。SEO対策だけをしていれば成果が出ていた企業も、顧客接点の多様化や第一想起を狙っていかなければ変化に対応できないのだ。
「AI検索はマーケティングの戦略・戦術の実行に今後大きく影響してくるでしょう。変化に対応するためにはテクニック論だけではなく、顧客との接点を持ちながらAI技術に最適化していくトータルでの設計が非常に重要になってくると思います」(平氏)
平氏が共同創業したCINCは、SEOだけでなくSNS、広告運用に関するコンサルティング、コンテンツマーケティングなどにおいて数多くの実績を持つ。

AI SEOも含めたマーケティングサポートが必要な場合は、利用を検討してもいいかもしれない。