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生活者データバンク

生成AIを使った定性調査でも“インサイト”にたどり着けるのか?市場調査会社・インテージの挑戦【前編】

今回の検証で生成AIが見逃した“ノンバーバルな情報”

【フェーズ2】データの解釈

 データの解釈のフェーズでは、人間リサーチャーの力が依然として必要だと考えられます。その理由として定性調査では発言の背景や文脈を考慮しながら、膨大な発言の中から重要なポイントをピックアップする作業が求められますが、現状の生成AIの性能と、今回読み込ませたテキストデータだけでは人間の感情を考慮した臨機応変なデータ参照が難しかったためです。

 実際に生成AIにあるお題に対するテキストデータを解釈させようとした際、対象者の答えが複数あり、それぞれ違う結論を話している場合、答えをうまくまとめることができませんでした。インタビュー時、対象者は質問に対して思い出しながら話しているため、インタビュアーの問いかけの直後に本音が出てこず、インタビューのあちこちで質問に対しての答えがバラバラに出てくることがあります。また、その発言は、最初は「Yes」の内容でも、話しているうちに最終的に「No」というように、結論が変わることがあります。

画像を説明するテキストなくても可
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 人間リサーチャーは、表情、声色等のノンバーバルな情報も加味して適切な判断をして結論を導き出すことができますが、テキストデータしかない生成AIにはその本音の重み付けができず、対象者の本音は何かを正しく判断することは難しいのです。発言の重み付けができない理由としては、「感情がこもっている発言」や「特に重要な発言」を判断することができないからです。たとえば、インタビューの中で対象者が「この商品は素晴らしい」と言ったとしても、それが本当に心からの意見なのか、あるいは社交辞令なのかをAIが判断するのは難しいのです。

 では、この内容に生成AIが対応できるようになるためには、どのような対策が考えられるでしょうか。まず最も単純なのは、インタビューの動画データを生成AIに読み込ませる案です。今回は個人情報保護の観点からテキストデータのみを読み込ませていますが、生成AIの種類によっては動画データを読み込ませれば“本音の重みづけ”が可能になるかもしれません。

 次に考えられるのは、インタビューの流れを生成AIが判別しやすいものにするという案です。今回のインタビューでは柔軟な会話の進行に重きを置き、対象者が自由に発言できる流れで実施しましたが、インタビューのパートごとに最終的な結論を確認する項目を追加するなど、流れの改善で精度が向上するかもしれません。

【フェーズ3】レポート全体構成の決定

 レポートの全体構成のフェーズにおいても、人間リサーチャーの力が依然として必要だと考えられます。その理由としては現状の生成AIでは調査企画の意図を正しく理解し、意図に合った方向性でまとめを出力することが難しかったためです。

 たとえば、ミレニアル世代とZ世代それぞれにインタビューしたデータを読み込ませ、「ミレニアル世代とZ世代の違いについて分析して出力してください」と指示しただけでは、具体的にどの側面にフォーカスすべきかをAIが自ら決定することはできなかったため、今回の検証では人間が分析視点を情報として与える必要がありました。

 意図に合った方向性の出力は定性調査のみならず、生成AIの使い方全般として議論が残る点ですが、それはなぜなのでしょうか。それは人間が分析視点を獲得するまでのプロセスを考えると説明することができます。日々の業務で当然のように認識している、調査対象になっているプロダクトのこれまでの歴史、そのプロジェクトに関わる人のバックグラウンド、思い、リサーチャーやマーケターが持っている肌感覚……これらの情報をすべてかけ合わせることで導き出されているのが分析視点なのです。これらの情報を生成AIにすべてインプットをすることができれば、答えを出すことができるかもしれませんが、明文化、資料化されていない情報も多くあり、現実的ではありません。

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 では、この内容を生成AIが対応できるようになるためには、どのような対策が考えられるでしょうか。それはやはり分析視点を獲得するための事前情報を、生成AIに学習させることです。具体的にはカスタム生成AI(ChatGPTのマイGPTなど)を使い、自身の代弁者となる存在を作り上げることで、現段階においても一定のレベルまでは対応できる可能性があります。現実的には、人事異動などで担当者が変わることも考慮し、部署や部門でのカスタム生成AIを作成することが想定されます。

 最後のフェーズである(4)レポート作成については、来月公開予定の後編記事においてご紹介させていただこうと思います。ここまでのフェーズ(1)~(3)では、今回行った検証方法において大きな成果が出ているわけではありません。一方で(4)フェーズにおいては、定性調査ならではの生成AIの使い方が発見できています。ご興味があれば、是非次回もお付き合いください。

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この記事の著者

大野 貴広(オオノ タカヒロ)

株式会社インテージ
エクスペリエンス・デザイン本部 リサーチ事業推進部 F2Fアナリシスグループ リサーチャー/モデレーター

SP会社、BtoB調査会社を経て、2018年にインテージ(旧インテージクオリス)入社。一次情報に触れてから分析を始めることを大切にしており、インテージの中でも定性調査を担当する部署で消費者の生...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

村田 万由子(ムラタ マユコ)

株式会社インテージ
エクスペリエンス・デザイン本部 リサーチ事業推進部 F2Fアナリシスグループ リサーチャー/モデレーター

2021年にインテージに入社。定性アドホック調査をメインとして調査の企画からレポーティングまで担当。食品・飲料、ビューティー、日用品、車など多岐にわたる業界のクライアント支援実績あり。先進技術...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

白井 光(シライ ヒカル)

株式会社インテージ
エクスペリエンス・デザイン本部 リサーチ事業推進部 F2Fアナリシスグループ リサーチャー

BtoB調査会社、市場調査会社を経て、2024年にインテージ(旧インテージクオリス)入社。人の言葉選びに興味を持ち、対象者一人ひとりの話を聞くことができる定性調査に従事。現在はクルマ業界の案件を中心に対応。...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/04/14 13:04 https://markezine.jp/article/detail/48884

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