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これからのパーソナライゼーション

生成AIでパーソナライズをどう実現?中川政七商店が挑む「仮想人格」を活用した施策とその成果

生成AIを活用したパーソナライズをどう実現しているか?

──顧客体験向上のためには、データを活用しパーソナライズしたコミュニケーションが望ましいですが、データプライバシーを守る必要があります。御社ではどのように対応していますか。

 中川政七商店の場合は、クラスターごとに個人が特定できなくなった状態のデータを、生成AIに学習させています。クラスター分けの利点はいろいろありますが、一番大きな利点は、生成AI活用時のセキュリティー面での課題解決です。

 生成AIでネックになるのは、そのまま顧客情報や個人情報を学習させてはいけない点です。しかし、実際のところCRMの分析では、多くの場合個人の詳細なデータは必要ありません

 メールマガジンの配信にはメールアドレスが必要ですが、分析には顧客IDさえあれば十分です。また、性別や年齢、居住地といったデモグラフィックによる特性の重要度も薄れており、そういった個人情報も使わなくてもいい。そのため、クラスターの特徴が把握できていれば、個人レベルで把握する必要がないのです。

──具体的にはどのような仕組みでしょうか。

 各クラスターの行動データがたまっているので、そのデータを生成AIに全部読み込ませて仮想のクラスター人格というものを作っています。クラスターは8つありますが、それらを3つに分類。3つのグループに属するAI人格が、テキストメッセージや、ECサイトの特集記事の文面を作成するサポートをしています。

画像を説明するテキストなくても可
MONJUによる連携イメージ
※新規顧客=会員登録をしていないゲスト:既存顧客=会員登録をしている顧客
(クリックすると拡大します)

 その人格に「こんな内容のメルマガが送られてくるとしたら、開封したくなりますか」と質問したり、「このメッセージは何割の人が開封すると思いますか? 8割じゃなかったら9割になるまで改善してね」と指示したりしながら、テキストメッセージを作っています。また、最終のアウトプットをHTMLではなく、LINEのメッセージ形式に変えることでLINEメッセージの配信も行えるようにしています。

 ただ、AIが生成したテキストだと中川政七商店のトーン&マナーとズレが生じるため、人の手で調整してから配信しています。また大前提として、これまで当社のスタッフが作成した、メルマガの膨大な配信データがその土台となっています。

F1顧客への適切なコミュニケーション課題

──多くのEC事業者が課題とする、F1(初回購入)顧客に対してはどのようにアプローチしているのでしょうか。

 多くの企業では、CRM基盤で1回購入した人が約6割、2回以上購入する人は4割程度で、1〜3回程度のライト顧客が全体の8割を占めるという構成になっています。売上高ベースで見ると構成比率は逆転することが多いのですが、人数で見ると実際にはF1(初回購入)やライト顧客のほうが多いのが現実です。

 そのため、自社ECサイトで1回しか買ったことがない人に対して、適切なコミュニケーションを取る必要があり、そこに課題があります。やりとりをしたことがない人が求めるものを提案するのは難しいからです。

 そこで、クラスタリングにより、10回以上購入した人と1回購入した人で似たような属性の人たちをまとめる。これにより、1回購入した時点で「10回購入する頃にはこんな感じになりそう」という予測を立てられます。これにより、F1のお客様にもF10のお客様の流れを基にした提案ができるようになります。

 クラスタリングという方法が生成AIやデータ活用の取り組みと非常に親和性が高く、これが中川政七商店における運用の全体感となっています。

クラスタリング×生成AIでメルマガが120〜150%の効果向上

──現在実装されている施策について詳しく教えてください。

 実装できているのは、メールマガジンとLINEです。実装してから、作業工数を半減できたため、よりお客様に合わせた内容を考えることに時間を使えるようになりました。

 そして、こういったシナリオメールをお客様の負担にならない形で届けるために「お客様の行動や関心に合わせたクラスタリング」を行っています。

 たとえば、初めて商品をご購入いただいた方には、その商品がその後の暮らしにどう役立つかの読み物をメールで届ける、といった工夫です。このように、特定の購入タイミングで自然なコミュニケーションを行うと、お客様にとっても負担にならず必要な情報を届けることができ、その結果、売上にもつながりやすいと感じています。

──具体的な成果はいかがでしょうか?

 AIも活用して作成した文面でコミュニケーションした結果、顕著なクラスターではクリック数が120〜150%ほど上がり、全体として「お客様の行動や関心に合わせて届けると開封されやすい」ということが実証されました。

 今後もAIを活用して単に“画一的なコミュニケーションで数を打つ”のではなく、お客様に合わせた文面を、必要とされている方にお送りすることで、 心地よい接点を継続的に作れていると考えています。

──売上への効果はいかがでしょうか?

 複合的な要因があるため正確な測定は難しいのですが、メルマガやLINE経由でのサイト訪問数の増加し、売上にもつながっています。お客様の体験を意識したコミュニケーションに変えてからは、売上の伸び以上にお客様との距離が縮まった感覚が強くあります。

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AIによってパーソナライズしたコンテンツを生成する未来

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この記事の著者

平田 順子(ヒラタ ジュンコ)

フリーランスのライター・編集者。大学生時代より雑誌連載をスタートし、音楽誌やカルチャー誌などで執筆。2000年に書籍『ナゴムの話』(太田出版刊)を上梓。音楽誌『FLOOR net』編集部勤務ののちWeb制作を学び、2005年よりWebデザイン・マーケティング誌『Web Designing』の編集を行う。2008年よ...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/10/21 08:00 https://markezine.jp/article/detail/49539

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