曖昧に使われてきた「マーケティング」に共通言語を作る
――まずは、河野さんの日本マーケティング協会(JMA)での役割と、業界でのご経歴について教えてください。
私は現在、JMAの事務局長として、マーケティングに携わる多くの企業の経営層やトッププレイヤーと日々接しながら、マーケティングや技術の動向を把握し、協会事業全体の推進に携わっています。
キャリアのスタートは、大学院を修了後、情報通信産業を中心としたコンサルティング会社への入社です。当時はちょうどスマートフォンの黎明期で、iPhoneの登場を契機に、モバイルを起点とした市場や消費者行動が大きく変わり始めた時期でした。「新しい技術がマーケティングや消費者行動をどう変えていくのか」に強い関心を持ちながら、日本企業の市場開拓や商品開発の支援に携わりました。その後、流通経済研究所というシンクタンクに移り、店内でのスマートフォン利用が購買行動に与える影響などを研究していました。
――個別のコンサルティングや研究の現場から、業界全体を支援するJMAへ移られた背景には何があったのでしょうか。
コンサルティングを行う中で、「マーケティング」という言葉が企業や部門によって非常に曖昧に使われていることを実感したからです。クライアント企業同士、あるいは社内でも、マーケティングに対する認識に齟齬があると感じていました。これは個社ごとの課題というより、マーケティングを体系的に理解し、共通の言葉で議論するための土台が十分に整っていないことに起因しているのではないか。そう考えるようになりました。
また、私自身も消費者行動だけでなく、価格設定やコンセプトメイクなど、より幅広い視点でマーケティングの全体像を捉えたいという思いもありました。そんな時にJMAから声をかけていただき「マーケティング全体の共通言語を整え、体系的に学べる教育事業を一緒に作っていきませんか」と。そこで「マーケティング検定」の立ち上げを主導しました。教育によって知識を平準化していくことは、個社の支援以上に、日本のマーケティング人材全体の底上げにつながる大きなインパクトを生むと考えたのです。
テクノロジーが牽引した業界の熱量と拡大の20年
――MarkeZineが創刊してからのこの20年間、マーケティング業界はどのように変化してきたと感じますか?
この20年を振り返ると、マーケティングに向けられる関心や期待は着実に高まり続けてきたと感じます。2000年代のデジタル広告やWebマーケティングに始まり、SNS、スマートフォン、EC、データ活用、サブスクリプション、顧客体験、サステナビリティ、そして現在の生成AIへと、その対象も方法論も大きく広がってきました。
多くの産業が成熟化する中で、マーケティングは関わる人材やテーマを広げ続けている数少ない業界の一つだと感じます。「テクノロジーを使って、これまで見えにくかった顧客行動やニーズの一端を捉え、ビジネスに活かせるのではないか」という期待と熱量が常に膨らみ続けているのを感じます。
――テクノロジーの進化に伴って、携わる人材の幅や規模も大きくなっているということですね。
マーケティングに関わる人材の裾野は、確実に広がっています。従来のリサーチャーやコンサルタントだけでなく、EC事業に携わるプレイヤーや、システムエンジニアの方々もマーケティング領域に多数参画するようになりました。
その結果、マーケティングは特定の専門職だけが担うものではなく、さまざまな職種の方々が新しい技術を活用し、データの分析、施策の改善、顧客接点の設計などに取り組むようになっています。BtoC領域はもちろんですが、BtoBマーケティングにおいても「顧客をどう可視化し、効率的にサービスを届けるか」への関心は非常に高まっています。この20年間で、マーケティングという概念は質的な変化を伴いながら、関わる領域を大きく拡大させてきたと言えます。
