AIではわからない生活者のリアルを集めに行く
──AIやデータの活用が進み、高度なデータ分析や最適化が可能となる半面、コモディティ化も指摘され始めています。マーケターが新しい価値や市場を創造していくためには、何が重要になるでしょうか。
AIは非常に便利なツールですが、そのアウトプットはあくまで「過去の集合知」に過ぎません。今マーケターに求められるのは、生活者の生の情報、すなわち「Human-Led Intelligence(人間主導の知性)」を導き出すことです。
AIの情報と生活者の生の情報との対比を、私は「カット野菜と泥つき野菜」に例えています。カット野菜はすぐに使えて非常に便利ですが、素材本来の姿、全体像がわからなくなる危険性がある。一方の泥つき野菜は、加工に手間はかかりますが、素材本来の姿そのままです。
AIのアウトプットは加工された二次情報か三次情報であり、どうしても生活者への解像度が下がってしまいます。だからこそ、一次情報に当たる必要があるのです。

──一次情報は重要ですが、とらえるのは非常に難しいですね。
正直、非常に骨の折れる作業です。生活総研による生活者インタビューでも、ご自宅を訪ねてその人の生活環境も観察しながら話を聞くなど、リアルな対面を行うべきところ、近年は時間や効率面からオンラインで実施することも多いです。業務効率性は追及しつつ、可能な限り生の生活者情報にあたることにも意識的にリソースを割くべきと考えます。
未来を創りだす生活者へリスペクトを
──最後に、これからの20年に向けてメッセージをお願いします。
「育てるデジタル、信じるアナログ」を研究している際、文化人類学や社会学に加え、進化人類学の書籍も読みました。その本によれば、ある1ヵ所から新たな鉄器が出土すると、その後次々と同じ鉄器があちこちから出土するそうです。人類はテクノロジーを開発・活用して進化してきましたが、半面、テクノロジーに依存してしまいやすい生き物とも言える。これはデジタルに限らない、連綿と続く人間の性質なのかもしれません。
しかし同時に、生活者はそうした危うい傾倒を自発的に引き戻し、バランスを保つレジリエンス(復元力)も持っています。だからこそ、生活者を操作しようとするのではなく、生活者をクリエイティブな存在としてリスペクトしなければなりません。テクノロジーが社会を変革する場面はもちろんありますが、なによりも「生活者の中に未来の種がある」という発想が生活総研の軸であり、これからのマーケターに求められる姿勢だと思っています。

