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SNS起点で生まれるマーケティングトレンド

「ストリーマー界隈」はなぜ影響力を持つのか? 双方向の熱量循環から考える企業の向き合い方

髙橋 大輝[著]

界隈からみるインサイトや行動特徴

 ストリーマー界隈の大きな転換点には、2021年前後の新型コロナウイルス感染症による外出自粛と、あるゲームタイトルの流行、そしてゲーミングチームの存在が大きく影響していると考えられます。

 家で過ごすことが日常となったあの時期、「Apex Legends」というゲームタイトルが爆発的な人気を獲得しました。友人とオンラインでつながり、話をしながら一緒に遊ぶ。そんなコンテンツが世界の異常事態と噛み合い、普段ゲームをプレイしない層が参入。自分がプレイするゲームのお手本を求めて配信を視聴するという流れが生まれました。

 その中で特に人気を博したのが「Crazy Raccoon」というプロゲーミングチームが主催する「CRカップ」です。前述のゲームタイトルの大会にストリーマーを招待し開催されました。普段から配信を視聴する層だけでなく、そうでない層もゲームタイトルをきっかけに大会の配信を視聴し、ストリーマーたちの人となりを知ってファンになる。そして普段のライブストリーミングも視聴するようになるという流れが、界隈の賑わいを大きく後押ししていきました。

 この大会には芸能界で活躍するHey! Say! JUMPの「山田涼介」さん、俳優の「本田翼」さんなどもゲーム好きストリーマーとして参加したことで、より多くの発信が生まれ、一過性の流行にとどまらない新しい認知を獲得しています。

2025年8月1日〜2026年7月31日における「ストリーマー」を含むSNS投稿(X、Instagram、YouTube、TikTok、Facebook)のエンゲージメント推移を示す折れ線グラフ。人気ストリーマー所属チーム脱退、雑誌「anan」のバックカバーに登場、人気VTuberによるコミュニティ大会開催、配信プラットフォームの規約変更(収益化緩和)の各時期にエンゲージメントが伸びている
「ストリーマー」含むSNS投稿の推移
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 これまでのクローズドで小さなコミュニティから、既存層と新規層の交わりによって「推し活」との融合を果たし新たな市場を獲得しました。もちろん、これまでも人気や発信力のあるストリーマーは存在していました。しかし、前述のようなコミュニティ主導のイベントが盛んに開催され、社会における一般化が進んだことでコミュニティが開放され、アイドルを応援するような「推し活」的発信が一般ユーザーから行われるようになったことが、界隈の強化・拡大に大きく寄与した要因であるといえるでしょう。

 これは近年の若年層を中心とした「テレビ離れ」とも関係していると思います。モバイル端末などでのSNS・動画視聴が生活の基本となったことで、より身近な存在として、また新しいコミュニケーションの場として台頭したのがストリーマー界隈であるといえるかもしれません。

年代別に主なメディアの平均利用時間(令和6年度・平日)を示した棒グラフ。テレビ(リアルタイム)、ネット利用時間、ラジオ視聴時間を全年代と10代〜70代で比較。10代〜50代はネット利用時間がテレビ(リアルタイム)を上回り、60代・70代ではテレビ(リアルタイム)が上回る。出典:総務省情報通信政策研究所「情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査」
年代別・主要メディアの平均利用時間の比較データ
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 また、ストリーマー文化においては「推し活」文脈に近しい系譜がありつつも、若干の相違を見せます。ストリーマー界隈では「コラボ配信」と呼ばれるストリーマー同士の交流が非常に活発です。これにより自分の好きなストリーマーの等身大の姿を垣間見る機会が増えるだけでなく、ストリーマーからストリーマーへとファンの橋渡しが生まれます。

 ストリーマー同士の交流を視聴し、そこで新しい「推し」が生まれる。この循環的な構造もまた、界隈の強化・拡大の要因の1つといえます。

界隈注目トピックス

 次に、配信を生業とするストリーマーが新たな注目を集めるトピックについて、SNSを中心に話題化が生まれた事例をピックアップして語っていきます。

界隈注目トピックス。Topic 1(2023年12月)男性ストリーマー5人がスキンケアブランドとコラボ、Topic 2(2024年6月)女性VTuberの使用シャンプーサイトがサーバーダウン、Topic 3(2025年8月)ゲーミングチーム所属の4人がバックカバーを飾る、Topic 4(2025年11月)ゲーミングチームを題材にコミカライズ、Topic 5(2026年3月)ストリーマーが公式アンバサダーとして登場
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Topic 1:ストリーマーを通じた「新たなタッチポイントの創出」

 元プロゲーマーで現在「ZETA DIVISION」所属ストリーマーの「釈迦」さんをはじめとする人気男性ストリーマー5人を起用した、オンラインサイト「Maison KOSÉ(メゾンコーセー)」とのコラボ事例です。

 この5人のメイン視聴者層は男性が多く、普段はスキンケアやコスメとの接点が少ない層です。スキンケアブランドが男性に対してどうアプローチするかという課題に対し、この事例はOOHやコラボグッズを実施し、それぞれのストリーマーが配信で関連した雑談をすることで、強い訴求に成功しました。それまでは関心がなかった層に対して、体験機会を見事に生み出しました。既存のターゲット論にはない購買を促進した事例といえるでしょう。

Topic 2:ストリーマーが生み出す「ファンの行動変容」

 VTuber事務所「ぶいすぽっ!」に所属する「胡桃のあ」さんが、ライブストリーミング中に「普段使っているシャンプーは?」と聞かれ商品名を答えたところ、即座にその商品ホームページがサーバーダウンするという事態が発生しました。

 その後、企業側がSNSで一連の流れについて言及・発信したことが界隈内で「公式が反応してくれた!」といったポジティブな驚きを生み、実際の購入や企業への好感を込めたUGCが自然発生しました。

 2つの事例から読み取れるのは、計画的か偶発的かを問わず、生活者たちに「推し」の新たな一面や応援する手段がポジティブにもたらされた時、それが新たなタッチポイントとして受け入れられ、行動を伴うに至るということです。これは単なる「インフルエンサーの影響力による一過性のバズ」ではありません。

 最大の特異性は、ライブストリーミングという特性上、視聴者が「今すぐネットにアクセスし、ノータイムで検索・SNS投稿・購買行動に移せる環境」にいることです。ストリーマーとファンのリアルタイムな対話が生む熱量が、そのまま外部のSNS空間へと波及し、UGCとして自走していく連鎖反応の構造理解が重要です。

「ストリーマー界隈」のこれから

 前述のような事例は他界隈にもありそうに思われるかもしれませんが、ストリーマー界隈には大きな特異性があります。

 それは本流が「ライブストリーミング」であるという点です。視聴者はストリーマーの情報発信に対してノータイムで検索やSNSでの投稿が可能です。さらにリアルタイムなコミュニケーションで意見を深掘りできるため、その場における率直な空気感を共有できるのが他界隈にはない強みです。

 「ストリーマー=ゲーム」という根幹はありつつも、新たな市場を拡げています。界隈の中で循環していく話題やコミュニケーションが増幅していく構造は、広告やマーケティングの分野において益々大きな影響力とビジネスチャンスを持つことが予想されます。

広告やマーケティングがどう関わっていくのか

 最後に、この「ストリーマー界隈」とどう向き合っていくべきかを考えます。

 大きな影響力を持ち、市場としても確立された生活者たちの熱量を単純な「売れそうな市場」として捉え、とりあえず起用やコラボをすることは、界隈を既存のターゲット論の枠組みに当てはめてしまうことになるでしょう。そうなれば、界隈に存在するコンテキストや文化を持たない上辺だけの空虚な施策となり、ユーザーの反発を引き起こすリスクを孕んでいます。

 では、我々や企業・ブランドに求められている態度はどのようなものでしょうか。

 それは、文化を利用してコンテンツ化するのではなく、界隈の持つ熱量をともに持ち、寄り添い、界隈をもっと盛り上げる「当事者」として関わっていくことです。SNSとの距離感が近い界隈だからこそ、生活者たちの声は一層リアルになります。

 「この企業/ブランドは分かっている」「このコラボは成功だ」といったポジティブな声を生むためには、我々自身がストリーマーや界隈全体に対して本気の理解を持ち、どれだけファンの1人として全力で取り組めるかにかかっています。

 つまり、企業に求められているのは、界隈の文化やストリーマー個人への深いリスペクトに基づいた「納得感あるストーリー」なのです。

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この記事の著者

髙橋 大輝(タカハシ ダイキ)

株式会社スパイスボックス アカウントプランニング局 クリエイティブプランナー/コピーライター
2019年入社。食品や美容、サービス、プロダクトなど幅広い領域で、生活者インサイトを起点としたコンセプト開発・施策プランニングにて支援。デジタル・SNSを出発点にひらかれた「共感」と「話題」を生むコミュニケーションを行う。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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