関心の深さに差があっても。企業は参加のきっかけをどう作るか
マーケターとしてこの事例を見ると、スポンサーの関わり方にも可能性を感じます。選手を応援し、その成果を一緒に喜ぶことに加え、食や文化に触れることも、来場のきっかけになります。企業がこうした体験を支えることで、スポーツへの関心の深さが異なる人々とも、意味のあるブランド接点を作れると考えます。
たとえば、選手への応援メッセージを届ける仕組みや、来場者が思い出を持ち帰れる記念撮影の機会などが考えられます。大切なのは、その場にいる人の喜びを豊かにすることです。どのような協賛施策が実施できるかは、大会の権利や運営条件を踏まえ、主催者と事前に設計する必要があります。
情報発信も、体験を広げる一部です。私はパリで参加方法がわからず、会場に入れませんでした。一方、今回の取材では、選手や観客が体験をSNSで発信し、その反響が次の参加につながった様子が語られました。いつ、どこで、誰に会えるのか。参加するにはどうすれば良いのか。こうした情報を届けることも、来場するまでの体験を支えます。
ちなみに、筆者が以前スポーツ大会のスポンサーだった頃に行った調査では、自国アスリートの活躍と一緒に掲載されるとブランド好意度が一番リフトするという結果でした。
AI時代だからこそ考えたいリアルの価値と今後の「勝ち組」
生成AIによって情報やコンテンツを手軽に作れるようになる中、私は、リアルな体験がマーケティングにおいて一層重要になると考えています。目の前に選手がいて、周囲の人と声援を送り、喜びを分かち合う。その場に居合わせた経験は、個人の記憶として残ります。
AIによる効率化が進み、人々が自由に使える時間が増えるなら、その時間をどのように過ごしたいと思ってもらえるかが、企業や地域にとっての課題になるでしょう。スポーツを祝福し、食や文化に触れ、人と交流できるOAWのような場は、その選択肢の一つです。
OAWは、メダリストを祝福するコンセプトを広げ、アジアの食や文化も楽しめる場として、全体で36.3万人を迎えました。当初想定の約20万人を上回ったという成果を、次の企画に生かすには、どの体験が来場のきっかけとなり、どのような関心やつながりを生んだかを見ていく必要があります。競技の感動を、選手、大会、地域、そして企業との継続的な関係へつなげる。そのための体験設計に、OAWから学べる可能性があると考えています。
競技の前後に選手とファンが交流する場を設け、ファンとの関係を深めてきた成功例は、これまでも数多くあります。たとえば、バスケットボールのBリーグは、多彩なエンターテインメントや選手との触れ合いを取り入れています。ダンスのDリーグでは、ダンサーがお客様をお見送りする取り組みもあります。DeNAも、試合後のファン感謝イベントやスタジアムの活用を通じて、競技観戦にとどまらない体験を提供しています。
私は、こうした取り組みを積み重ねるリーグやチームが、今後の「勝ち組」になっていくと考えています。これらは、体験価値の重要性を既に示している事例です。それぞれの取り組みについては、また別の機会に詳しくお伝えできればと思います。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
江端 浩人(エバタ ヒロト)
iU大学教授、江端浩人事務所 代表、MAIDX LLC代表、AlMONDO事業顧問
米ニューヨーク・マンハッタン生まれ。米スタンフォード大学経営大学院修了、経営学修士(MBA)取得。伊藤忠商事の宇宙・情報部門、ITベンチャーの創業を経て、日本コカ・コーラでマーケティングバイスプレジデント、日本マイクロソフト業務...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
