内製化がもたらした効果:コスト削減を超えた価値
内製化への移行は、両社にコスト削減以上の価値をもたらした。オルビスでは代理店手数料の削減でCPAが低減したが、山口氏は「マーケティング担当者の顧客解像度の向上」を最大の価値として挙げる。

「以前は代理店に対するディレクションスキルが重視されがちでした。しかし、自ら広告を運用して日々の数値と向き合うことで『顧客が何に悩み、どの言葉に反応するか』を深く考えるようになります。近年のWeb広告は自動化が進んでいるため、精緻な顧客理解に基づく訴求設計こそが成果を分けます。内製化によって顧客を見る解像度が飛躍的に高まり、組織力が強化されました」(山口氏)
また、施策の成否が自身の評価に直結するため担当者の当事者意識も高まり、自分ごと化が促進されたと山口氏は振り返る。
三井住友FGでは、代理店との共創型マーケ組織に移行してから、オウンドメディアのPVが年間数百万規模へ成長。「ターゲットに適したコンテンツの制作が可能になったためだろう」と河津氏は分析する。加えて、経済産業省が選定する「DX銘柄」で2026年のグランプリに選ばれるなど、オウンドメディアを通じたDX施策の発信が実を結んだ。
「社内の変化として大きいのは、事業部の担当者がオウンドメディアでの発信を『自分たちの活動』と捉え始めたことです。内製化によって運営メンバーの顔が見えるようになり『自分たちの取り組みも取り上げてほしい』という相談が自然と寄せられ、社内連携が活性化しました」(河津氏)
組織の自走を支える人材育成とリーダーの資質
内製化を成功へと導くためには、人材育成とリーダーシップが鍵を握る。オルビスでは人事評価制度を活用して育成を定着させた。
「メンバーの育成を個人の善意に任せないことが肝要です。教える側にはメンバーの独り立ちを、教わる側には自立運用を成果指標に設定するなど、人事評価と連動させました。これに加え、事業を熟知したプロパー社員の私と、運用実務に長けた代理店出身の中途社員がタッグを組んでプロジェクトをリードした点も、成功要因の1つだったと考えます」(山口氏)
中途入社の立場で内製化を率いた河津氏も、プロパー社員とのペアリングの重要性を次のように語る。
「中途入社の専門人材は、銀行特有の商慣習や現場の価値観を理解しきれない場合があります。私も過去に、正しいルートを経ず顧客に直接取材を申し込もうとした結果、営業部門から厳しく咎められた経験があります。社内の文脈を熟知したプロパー社員と外部知見を有する中途社員が、相互に学び合うことで実行力が高まるはずです」(河津氏)

内製化を率いるリーダーに求められる資質として、山口氏は「2〜3年の長期視点」と「意思決定者を巻き込み味方を作る政治力」を提示。河津氏は「自社の歴史や事業への敬意を持ち、前職の手法を押しつけずに社内外の専門性をつなぐバランス感覚」を挙げた。
セッションの最後に、登壇した両氏から参加者に向けてメッセージが送られた。山口氏は「内製化で最も重要なのは社内の理解を得て味方を増やす泥臭いプロセス。成果を急がずステークホルダーと対話を重ねることが最短の道になる」と総括。河津氏は「内製化の正解は環境によって異なる。他社事例やソリューションを貪欲に学びながら自社の軸を確立してほしい」と語った。
広告効率と顧客解像度を高めたオルビスの自走と、外部パートナーとの共創を確立した三井住友FGのアプローチ。「内製 VS 外注」の二項対立を超えたハイブリッドな体制から学べることは多いだろう。
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渡辺 佳奈(編集部)(ワタナベ カナ)
1991年生まれ。慶應義塾大学環境情報学部を2013年に卒業後、翔泳社に新卒として入社。約5年間、Webメディアの広告営業に従事したのち退職。故郷である神戸に戻り、コーヒーショップで働く傍らライターとして活動。2021年に翔泳社へ再入社し、MarkeZine編集部に所属。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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