巨大な広告予算を動かし、数々のキャンペーンを成功させてきたトップCMO3人がソルトレイクシティのサミット会場で顔を合わせた。その輝かしいキャリアとともに、彼らが現在のマーケティングについてどう考えてるのか、その一端を紹介しよう。
「今、多くの人にカウンセリングが必要」
ジム・ステンゲル氏は、P&Gのグローバルマーケティング担当役員として、80億ドルの広告予算を動かしてきた。在任期間中、同社のマーケティングを改革し、売上を倍増させたことが評価され、2011年にはFortuneが選ぶエグゼクティブ・ドリームチームにCMOとして選出された。また、P&Gが2008年のカンヌ国際広告祭ではじめてAdvertiser of the Yearに選ばれたときの立役者でもある。
ステンゲル氏は2008年にP&Gを去り、現在はコンサルティング会社Jim Stengel Companyを率いるかたわら、UCLAで教鞭をとっている。2011年には世界的な成功を収めた50社の成長戦略を分析した『Grow』を出版している。
マーケティングがデジタル化していくなかで、CMOは今年どのような変化を迫られたのかと司会者がたずねると、「データが爆発的に増加しました。それに対応するために、頭のいいCMOはパートナーを見つけようとするでしょう。正しい質問を正しい人にぶつける。社内にはいないかもしれませんが」と答えた。また「変わらないものはありません。P&Gでは将来を見越して仕事をする必要がありました。そこに追いついていかないと置いていかれます」と述べた。
また、マーケティング側の人間がどう変わるべきかという質問には、「消費者からすると、ダイレクトレスポンスなんてどうでもいいんです。今はすべてがメディアです。Google、Facebook…来年は何が重要なのかわからない。今は多くの人たちにカウンセリングが必要な時期ではないでしょうか」と述べた。
司会者が「カウンセリングとは?」とたずねると「P&Gでやったことは、まず(課題を)明確にすること。そして正しいチームを選ぶこと。標準的なチームでなんでもできるわけじゃないんです。何がしたい、どんな機能がほしいかと聞いてもわからない人が多い。リーダーシップとパートナーシップが重要です」と語った。
「デジタルデータはギフトとして受け取るべき」
アン・ルネス氏は現在アドビ システムズのグローバルマーケティング担当上級副社長。2006年にアドビ システムズに加わる前はインテルのセールス・マーケティング担当副社長を務め、日本では「インテル、入ってる」のキャッチコピーで知られる「Intel Inside」キャンペーンを成功させたほか、さまざまなグローバルキャンペーンを指揮してきた。
こうした功績が認められ、2000年にはAmerican Advertising Federationが発表する「Hall of Achievement」、広告業界における殿堂入りを果たした。また、今回のサミットのジェネラル・セッションでは、アドビカラーである鮮やかなレッドのワンピースに身を包み、大勢の観衆の前でTwitter社の創設者のひとりであるビズ・ストーン氏との軽妙なトークも披露した。
ルネス氏は、「クリエイティブやデータの量が増えていますが、そこからどのようにインサイトを得るかが重要です。デジタル(データ)はギフトとして受け取るべきもの。そこから顧客の考えを理解することができます」と語る。
複雑化するマーケティングの全体像をつかむにはどうしたよいのかという質問には、「アドビも現在それに取り組んでいるところで、オンラインとオフラインのチャネルのデータを組み合わせて分析しています。でも、現時点ではまだ難しい面もあります」と課題についても触れた。
また、デジタルチャネルがこれだけ多様化しているなかでも、2~3か月ごとに施策の見直しをしなければならないのかという問いには、「自動化、社内での分析が重要です。最終的とまでいかなくても、5個のテストを1週間やって効果が出ていない場合はリアルタイムで変えられます。CEOに納得してもらうためには、データを持っていることが大切です。」
また、現在求められるリーダーについては「若くてリスクを怖がらないひとがリーダーになるべきです。分析ができて、クリエイティブなひと。今雇おうとしている人は10年前と違います」と述べた。
「ブランドは今までにないくらい重要」
スコット・オルリッチ氏は、メール・マーケティングとクロスチャネル・マーケティングのソリューションを提供するレスポンシス(Responsys)のCMO。2004年に入社したのち、メール、モバイル、ソーシャル、ウェブを横断的に分析する製品を世に送り出し、複数の企業を買収し、市場をリードする企業に成長させた。その功績によって、2010年にCMO Instituteが選ぶ米国のトップCMO10人に選出されている。
「マーケターは変わるべき」と語るオルリッチ氏は、「デジタルメディアと従来のメディアのバイイングは違います。デジタルワールドではデータをもとに意味のあるマーケティングが可能です」と述べた。
また、「ブランドをデジタルで展開するにあたって、テレビのように感情を共有できるものがデジタルにはないのでは」という指摘については、「マーケティング体験そのものがブランドを証明するものでなければなりません。たとえばNike+のキャンペーンでの体験を考えてみてください。Facebookページが使われるようになり、ブランディングはこの3年で変わってきました。ブランドは今までにないくらい重要であり、長期的な戦略が必要です」と、従来メディアとは異なる、デジタル特有の体験を提供することが大切だと述べた。
また、デジタルマーケティングへの投資については、「マーケターのほうでも、デジタルにはかなり投資しています。たとえば、サウスウェスト航空はメールやFacebookをうまく使っています。ウィリアムズ・ソノマもそうです。こういう革新的な会社はアクイジション(新規顧客獲得)・マーケティング。でも、リレーションシップ・マーケティングをおろそかにすると10年後、大変なことになるでしょう」と語った。
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