広がるソーシャルデータ分析の活用領域
前回は、ソーシャルデータの活用時には、「KPIとの関係性や効果を見極められない」「ソーシャル上の発言者像が見えない」という2つの落とし穴があること、および、その解決方法について概要を説明しました。今回は「KPIとの関係性や効果を見極められない」ケースについて、複合分析を用いた解決法を詳しく説明します。
ソーシャルデータとKPIとの関係性について説明する前に、これまでソーシャルデータがどのような用途・目的で活用されてきたのか、振り返ってみましょう。マーケティングや企画部門でのソーシャルデータの活用領域は主に以下の3つです。
- ブランド調査:自社ブランドと競合ブランドの口コミ数やその内容から、各ブランドの認知度(マインドシェア)やポジショニング、強み/弱み(改善点)を把握し、その時系列変化をモニタリングする
- キャンペーン反響測定:口コミ数の増減やその内容(ポジティブ/ネガティブなど)から、広告や販促施策の効果検証を行い、施策を迅速に最適化する
- 市場調査:特定のキーワード(商品名、商品カテゴリ名など)を含む口コミデータを抽出・分析し、生活者のトレンドや、顕在的/潜在的な欲求、悩み、不満などを把握し、製品やサービスの改善・開発、販促企画のヒントに活かす。
上記の1~3は、インタビューやアンケート調査など、他の方法でも一部実施可能です。しかし、ソーシャルデータを活用することで生活者の本音を知ることができる/時系列変化を追うのも容易/口コミの伝搬過程も可視化できる/視点を変えながら何度でも分析できる/思いついた時に分析可能、などの利点から、他の方法を代替またはサポートするものとして活用が広がりました。
口コミ数と売上の変動から、キャンペーンの反響を測定する
ソーシャルデータの活用が広がるにつれ、主にキャンペーン反響測定において、「口コミ数を増やすこと自体が目的なのではない」との問題意識から、ソーシャルデータ単体での効果だけではなく、売上などのKPIへの影響も確認したいという期待が生まれました。
読者の皆さんの中にも、口コミ数と売上の相関分析などに取り組み、思うような結果(多くの場合“口コミ数増加と売上との相関は強い”というものでしょう)が出せずに、困っている方も多いのではないでしょうか。また、結果が出せずに、「口コミ数と売上の相関は弱い。したがって、口コミ数を増やすことに本質的な意味はない」などと結論付け、ソーシャルデータ分析に取り組む意欲を低下させてしまった方もいるかもしれません。
ここでポイントとなるのは、口コミ数は購買意欲の指標として捉えるよりも、興味関心の指標として捉えるべきという点です。口コミ数と売上との相関が強いケースももちろんありますが、大抵のケースでは売上との相関がある場合と、相関がない場合が混在します。
例として、いくつかのキャンペーンの反響測定を行う際に、売上データを加えた「複合分析」を行うケースを考えてみましょう。まずは、口コミ数と売上の時系列推移をグラフ化して、キャンペーン実施時期を確認しながら、相関の有無を確認します。口コミ数と売上の関係については、以下の表のA~Dの通り4つのケースがあり得ます。
口コミの増加と売上増加を組み合わせて分析することにより、キャンペーン間の比較や、良い点/悪い点を把握し、今後の改善に活かすヒントを得ることが可能となります。それぞれの場合について、解釈や分析すべき内容を見てみましょう。
A)口コミ増加あり、売上増加あり
興味関心も喚起でき、売上増加につながったケースです。この場合は、購買前の意欲に関する口コミを抽出・分析すれば、どのような点が購買を促進したのかを把握することができます。また、購買後の評価に関する口コミを抽出することで、満足度や生活者から他者へのおすすめ行為が期待できるかどうかなどを把握することができます。
B)口コミ増加あり、売上増加なし
興味関心は喚起できたものの、売上増加につながらなかったケースです。購買前の意欲に関する口コミを抽出することで、購買のバリアとなった原因を把握したり、購買後の評価に関する口コミを抽出し、不満や要望を把握することができます。
C)口コミ増加なし、売上増加あり
売上増加は確認できたものの、口コミ増加が確認できないケースです。この場合は、ソーシャルデータに頼るよりも、購買者に対するインタビューやアンケートなどを行い、購買促進要因や評価を把握する必要があります。
D)口コミ増加なし、売上増加なし
興味喚起も売上増加もできなかった、いわゆる失敗キャンペーンです。キャンペーンの内容について、口コミも売上も増加したキャンペーンなどと比較し、失敗した原因や改善点を分析します。