ユーザーは動いても、マーケティングの役割は変わらない
押久保:今回は、ヤフーの広告商品全般を管轄されている高田さんに、今後の方向性や注力する点などをうかがっていきます。直近ではスマートフォンサイトとアプリのトップページがリニューアルし、タイムライン型へ変更しましたよね。ユーザーの反響などはいかがですか?
高田:おかげさまで大きなトラブルもなく、スムーズに使っていただいているようです。現場はバタバタでしたが……。
押久保:スマホシフトは、昨今ヤフーが掲げるキーワードのひとつだと思います。実際、ユーザーのスマホシフトはどんどん進んでいますが、まずはこれについて現状の考えを教えていただけますか?
高田:そうですね、「スマホシフト」は注力する取り組みのひとつではありますが、「ヤフーがスマホのサービスだけを拡充していく」みたいなことではないんですよ。
確かにユーザーは、テレビに中心的に接触していた人がネットへ、ネットの中ではPCからスマホへ、またブラウザからアプリへと動いています。でも、ユーザーをしっかり捉えて最適なアプローチをする、というマーケティングの役割自体は変わっていないと思っています。
もちろん、「ユーザーの分散化」には注目しています。これによって、まずそれぞれの場所で接点をつくる必要があり、さらに裏側ではそれらをつなげる仕組みが必要です。なので、PCとスマホとアプリ、それぞれの世界のフォーマットに対応した広告商品をつくり、なおかつ裏側ではデータをつなげていかなくてはいけないと考えています。
ヤフーの役割は「戦略を変えられるインフラ」の提供
押久保:ユーザーの分散化に対応するなら、その接し方をより深く知る必要がありますね。
高田:ええ。例えばYahoo! JAPANのトップページにしても、以前PCの方がPV数が多かったので「メインはPC、スマホは“持ち歩けるPC”」と捉えていました。それが昨年第1四半期、PV数が逆転しました。そうなると「情報の起点はスマホ、PCは深掘りするデバイス」になるんですよね。すると、広告もそれに対応したものにしないといけない。
ただ興味深いのは、PV数は移りましたが、コンバージョン数はまだPCの方が高いんです。つまり、スマホで見て、PCで買っている。そういう人がまだ大きく残っています。いずれそれもスマホへ移っていくと思いますが、今のユーザーの動きにソリューションを合わせないと、ちぐはぐなマーケティングになってしまいます。
押久保:なるほど。ユーザー動向は、属性によっても違いそうですね。
高田:そうなんです。30代女性はほぼスマホ、一方PC中心の世代もある。なので、どんなセグメントにも最適なコミュニケーションができるように、戦略を変えられるインフラをつくるのがヤフーの役割だと思っています。
スマホというキーワードを掲げていますが、「すべてをカバーしたい」というのが根底にある考えです。そこはリーディングカンパニーの責任として、やらなきゃいけないことだと思っています。
スマホサイトのトップページリニューアル後、広告のCVRが大幅に改善
押久保:あらゆるセグメントに対応するのは、むしろヤフーじゃないとできないことのようにも思います。
高田:その点は、デバイス特化型のサービス提供会社と大きく違うところですね。とはいえ、ユーザーがスマホに移行しているのは事実なので、われわれも当然スマホに力を入れてはいます。特に、マネタイズですね。
基本的には、コンテンツを消費する体験とできるだけ違和感のない形でマーケティングをしていきたいので、その考えを今回のスマホ版Yahoo! JAPANとYahoo! JAPANアプリのトップページのリニューアルに反映させています。広告への接触も含めて、PCでの体験を再現するのではなく、スマホの操作性ありきで構築しています。
押久保:ユーザーにはおおむね好評とのことですが、広告主の評価はどうですか?
高田:速報値ですが、コンバージョンレートはかなり上がっています。広告もデバイスとの親和性が高いため、非常に良い結果が出ているので、評価いただけているのではないかと思います。
押久保:広告商品は、どのようなものがあるのですか?
高田:主にはインフィード広告、アプリインストール広告、プレミアムビジョンの3種類です。前者2つは見た目は同じで、スマホサイトに表示される、パーソナライズ化されたタイムライン型の掲載面に掲出されます。プレミアムビジョンは、トップページ上部に入るビデオ広告で、テレビCMと同じ素材を使ったブランディングが可能です。
アプリならではのターゲティングに注力、今後はディープリンクへも対応
押久保:インフィード広告は、クリックすると広告主のサイトに遷移する、いわゆる従来型の広告ですよね。アプリインストール広告の特長は何でしょうか?
高田:アプリインストール広告は、クリックすると、iOSであればApp Store、Android OSであればGoogle Playに遷移し、ダウンロードしたらすぐに元のページに戻れるようになっています。
裏側の特長としては、データの使い方と、トラッキングですね。まずデータの面では、アプリに特化したターゲティングとして、例えばアプリレビューサイト「AppBank.net」を訪れた、アプリに関心があるユーザーへも配信できるようにしています。トラッキングは、各種効果測定ベンダーさんと接続し、アプリ内でのコンバージョントラッキングまでを可能にしました。
今後はアプリ内で「ディープリンク対応」することで、アプリの中の特定画面へのリンクも可能になるので、特定商品のプロモーションもできるようになります。実はアプリだと、これができていないんです。
押久保:言われてみれば、そうですね。
高田:アプリはまだ、ウェブのユーザビリティを追っているフェーズですが、やはりローカルにあるという強みがあり、操作性もウェブよりいいので体験として優れています。ただ、ターゲティングという点だと、まだウェブのほうがいいんですよね。なので、その部分のキャッチアップをしていくのが課題です。
デバイス間で体験をつなげユーザーに最高のマーケティング体験を
押久保:冒頭でも、分散化するユーザーのデータを裏側でつなげる話が出ましたが、どうやってそれを実現するのですか?
高田:カギになるのは、識別子です。識別子が、広告だけでなくサービス面でもすごく大事な役割を担います。
ユーザーは今、PCもスマホもシームレスに使っていますから、体験の継続を考えるとコンテンツの閲覧もカートの中身も連携しているべきですよね。スマホの2台持ちでも同じです。そうじゃないと、スマホで買ったのにPCではレコメンド広告が出続けて「売り込まれている」と思われる可能性もある。だから、サービスでも広告でも、識別子によるデータのひもづけの精度を上げることが「おもてなし」になるんです。
押久保:なるほど。送り手視点ではなく「おもてなし」発想で考えれば、リターゲティング広告が嫌がられるといったこともなくなりそうです。
高田:そうですね。DMP、DSP=リターゲティングと捉えられがちですが、その風潮は変えていきたい。事業者さんがリターゲティングではなく「リマーケティング」という言葉を使っているのもうなずけるのですが、リマーケティングの概念は本来「その人が過去に来たことを知っていれば、よりよいおもてなしができるはずだ」ということです。
僕は、最高のマーケティング体験はコンテンツによって決まると考えています。この「コンテンツ」には、消費行動も含まれます。ものを買うのって、基本的に楽しいですよね。だから消費もコンテンツであり、その「もの」を知らないと買うこともできないので、適切な人に適切なタイミングで情報を届けることはサービスだと思うんですよ。
ネットで実現する「高速で精緻なおもてなし」
押久保:そういう体験を、広告で実現していくと。
高田:そうですね。ネットは長らく、簡単に最安値を探せるなど省力化の方向で進化してきましたが、データがつながって「高速で精緻なおもてなしができる」ことこそが本質だし、そこにもっとチャレンジしていきたい。ECもだいぶ楽しくなりましたけど、まだ街での実際のショッピングにはかなわない気がするので、その点を突き詰めたいですね。
押久保:では最後に、今後の取り組みや展望を教えてください。
高田:4月に新しくコンテンツマーケティング事業本部をつくり、メディアに親和性の高い広告制作に取り組んでいます。特に「コンテンツマーケティング×動画」は今年の注目トピックですね。また、「TRILL」という女性向けアプリを手がけており、ノウハウも溜まってきているので、このノウハウとレコメンド、ソーシャルを掛け合わせたマーケティングの提供も考えています。
直近では、Yahoo!リサーチをリニューアルしました。Yahoo! DMPでYahoo! JAPANのマルチビッグデータにリサーチデータを掛け合わせることで、商品を知らなさそうなユーザー層への広告配信や、ブランディング広告のPDCAを回すことなども可能になります。
スマホの広告は、出稿企業様も増えましたが、まだ単体での活用という印象です。クロスデバイスは新しい概念でもないですが、今後はPCとスマホでの連携を前提とした設計を強く推進していきたいですね。