AIを誰もが使える時代へ
MZ:ここまでうかがったのが、データサイエンティストがAIを活用するというフェーズ1の時代の話なのですね。さらにフェーズ2は、誰もがAIを使える時代というご説明がありましたが、これはどういったことでしょうか?
石山:コンピューターが汎用化し、ダウンサイジングしてスマートフォンという形で誰もが使っているように、AIも近いうちに同じ経路をたどると考えています。
自社内で行いたいAI関連のプロジェクトが数十個単位なら、データサイエンティストに任せられるでしょうが、それが数百、数千の単位だと、もはや専任者の雇用では対応できません。グローバル大手のプラットフォーマーで、かつビッグデータも有しているような企業では、実際に数千単位で常時プロジェクトが回っています。それは、全員がエクセルと同じくらい簡単に機械学習を使いこなし、予測モデルを立てられるので、可能になっているんです。
実はすでに当社では、誰もがAIを使えるフェーズ2を実現する開発を進めているので、決して未来の話ではないですね。
MZ:そうなんですね。具体的に、どういった形で実現しているのでしょうか?
石山:当社は昨年、米国のデータロボットという会社に投資をしました。同社は、世界的なデータ解析のコンペティション「kaggle」で上位を獲得している常連メンバーによるベンチャーで、誰もが使える機械学習のプラットフォームを開発しているんです。
これによって、すでに当社ではデータサイエンティストではない人も、自分でどんどん予測モデルを立てています。
マーケターの重要な能力は、データを生み出す力
MZ:では、AIが汎用化する中で、マーケターはどのような能力が必要になるのでしょうか?
石山:大きくは、3つあると考えています。ひとつは先ほどお話しした、データサイエンティストの採用。2つ目は、彼ら専門職以外の人もデータサイエンスを駆使できるようなプラットフォームの要件定義。同時に、自分たちの業務のうち煩雑な作業をAIに任せて、さらにどのように生産性を高めるか、ビジネスフローの要件定義も必要になると思います。
3つ目がいちばん重要な、データをつくる能力です。マーケターの圧倒的優位な能力は、実はデータをつくる力だと私は思っているんです。
MZ:具体的には、どういったことでしょうか?
石山:単にデータ収集プランを立てるのではなく、ビジネスの構想を起点に、それを実現するためのデータ収集の仕組みを考案していく。すでに先進的な企業やマーケターは実践していますが、こうした考え方がさらに重要になり、差別化の要因にもなるでしょう。
たとえば今普及しているSNSも、サービスを通して得られるユーザーデータに高いマーケティング価値があるわけです。10代の子がどういう写真を投稿するのかというデータが得られれば、若年層向け商品のコンサルティングもできるでしょうし、プラットフォームを確立すれば広告的な価値も生まれます。
このように逆算してサービスを設計し、データを集め、データサイエンスと掛け合わせてまた新規ビジネスに活かしていく。そんな能力が、ますます求められるようになると思います。
MZ:人工知能の浸透が進むことで、マーケターに求められるスキルセットが大きく変化しそうですね。後編では研究を通して、リクルートの既存ビジネスとの関連性、そしてAI研究を通してどのような未来を目指すのかをうかがいます。