web単体でのキャンペーンには限界があった
「アプリはダウンロードされない。webサイトを充実させた方が良いのではないか。このような声は最後まで社内から出てきました」と小国氏。それでも、今回の施策ではアプリでのリリースにこだわった。
アプリの利活用は生活者のスマホシフトを考慮すれば自然な発想ともいえる。また、小国氏と野村氏は過去に実施した施策の経験からも、アプリの必要性を強く感じていたという。
きっかけとなったのが、2015年に立ち上げられたソーシャルグッドプロジェクトという取り組みだ。これは『ハートネットTV』というNHKの福祉番組に端を発するもので、福祉の課題や取り組みをテレビ番組で完結させずに、課題解決に向けてリアルなソーシャルアクションにまで展開させようというもの。その一環として、小国氏はALSの認知拡大キャンペーンを実施した。
「当時、ALSの啓蒙・啓発のためのアイスバケツチャレンジが話題化する一方、病気自体の認知は2割程度とイベントだけが目立っている状態でした。そこで、webサイトやオリジナルソングを用意して理解の促進を狙いました。その中で「Share Music, Think ALS」というプロジェクトを立ち上げたのですが、これは手持ちの写真をアップロードしてメッセージを入力すればオリジナルソングにのせて動画を作成できるというもので、そのジェネレーターを野村さんにご相談して制作し、動画をシェアすることでALSの理解促進を図りました」(小国氏)
「この時に用意したジェネレーターは、パソコンのブラウザからのみ利用できる仕様でした」と野村氏。両氏は当初、アプリを活用した展開を計画したがNHKのレギュレーションの関係で実現ができなかった。
「webでの拡散は確認できましたし、一定の効果は出ました。しかし、サービスのポテンシャルを考えるとweb単体の限界も感じた。ですから今回は何としてもアプリを使いたかったのです」(小国氏)
世代別に拡散のチャネルを設定
結果として2か月で100万ユニークユーザーを獲得した同アプリ。なかなかアプリをダウンロードしてもらえないと悩む企業も多いなか、どのように実現させたのだろうか。
「世代によってメインとして利用しているチャネルは異なります。各世代に対してどのようにリーチするかを考え、テレビ・web・SNSを組み合わせて露出できるように調整しました。」と野村氏。具体的にはNHKの公式アカウントも活かしつつ、下記での拡散を意識したという。
- 10代:Twitter、YouTube、MixChannel
- 20代:Twitter
- 30代:Facebook
- 40代以上:テレビとFacebook
また、1月1日に新着アプリとしてApp Storeのトップに掲載されたことで20~30代への点火がうまくいったという。そこから、ランキングをチェックするようなアプリヘビーユーザー層への拡散が行われると共に、webメディアでの記事化が活性化した。
「正月という家族が集まり、且つ在宅率が高い時期にアプリをリリースすればダウンロード数を最大化できると考えていました。それが狙い通りに叶ったという印象です。最終的にアプリストアでの紹介はストア側が決定するものなので、私たちが指定することはできません。ですが1月1日に間に合うように開発し、各所にアプリの紹介をして回った甲斐はあったと思います」(野村氏)
テレビに関しては、1日4日の夜に放送された『プロフェッショナル 仕事の流儀』の10周年スペシャルに合わせてコンテンツが用意された。例えば有働由美子アナウンサーに実際にアプリを使用してもらい、作成した動画を情報番組「あさイチ」で紹介。その内容が「Yahoo!映像トピックス」にも掲載され話題が広がった。
「webでの人気も強い有働アナウンサーを仕込むことは必須だと考えていました。実際に彼女が作ってくれた「私の流儀」が”フリーにならない”というもので、わかってるなぁと思いましたね(笑)」(小国氏)
また、夜の本放送でアプリを紹介するほか、裏番組としてニコニコ生放送で『「プロフェッショナル」10周年同窓会』を放送。歴代プロデューサーらが登場するとともに、番組内でアプリを使って見せることでダウンロードを促した。さらに、アプリを落とした利用者やYouTuberが、自主的にアプリで作った動画をYouTubeやMixChannelに投稿。リリースから1週間で一気にダウンロードが増えていったという。
アプリがダウンロードされた要因として、「時代との相性も大きい」と小国氏。「今は動画や写真を自撮りして共有することが、自己表現の1つとして定着しつつあります。“自分を主役にした動画”が受け入れられる土壌ができているからこそ、ウケた面はあると思います」(小国氏)