定額制がもたらした3つのメリット
これは、いかにユーザーに受け入れられているかが一目瞭然の成果だといえるだろう。では、収益の部分以外に、定額制への移行がメーカーであるアドビ システムズにもたらしたメリットはどのようなものなのだろうか?
サブスクリプション型に転換することで、同社は“3つのメリットを得た”と捉えているそうだ。1つ目は、クラウドベースで製品を提供することで、製品自体を新たにリリースするサイクルを待たずに頻繁にアップデートやイノベーションを顧客に届けられるようになったこと。2つ目は、収益が予測しやすくなったこと。この2つは冒頭で解説した、そもそもなぜサブスクリプション型に転換を図ったのかの理由になっている点である。いずれの点でも、上々の手応えを感じているのが現状だ。
そして3つ目には、同社が各製品のクラウドプラットフォームを共通化することで、サービスと製品をより統合的に提供できるようになったことを挙げる。具体的には、顧客により利便性の高いサービスを提案したり、より幅広いサービス群を使ってもらえたりするようになった。こうした変革は、パッケージ販売よりも明らかに高い利便性を顧客にもたらし、既存顧客の満足度はもちろん、新規顧客の獲得に大きく影響していることも容易にうかがえる。
なおサブスクリプション型の価格設定については、各国のマーケティング調査や、製品が提供する価値といった継続的なグローバルの手法に基づいて設定しているという。各国の通貨で価格を設定した後は、通貨の変動を随時モニタリングし、必要に応じて調整している。
BtoCマーケで欠かせないもの
同社の製品のユーザーには、個人と法人の両方がある。それぞれに向けたマーケティング戦略で、共通するところと、異なる工夫が必要なところがある。
共通点として同社がまず捉えているのは、製品を使用する際の体験だ。“この体験自体が最も効果的なマーケティングである点は、BtoB、BtoCのいずれでもとても重要だ”と強調するほど、ベースになる価値でありマーケティング戦略であると位置づける。
次に、会社の特定の分野で革新的なアイデアを示し、主導的立場をとるブランドとソート・リーダーシップが大事であることも共通点だという。最後に、顧客との対話だ。“個人へも法人へも、有言実行を心がけなければならない”というその真意には、顧客は製品の売り込みではなく、アドビとの対話、具体的にはアドビのソリューションによってクリエイターやマーケターに自分の課題を解決してもらうことを求めているという考えがある。だから、顧客への共感と理解は、同社にとって誰に対するマーケティングでも重要な部分なのだ。
個人と法人で異なる工夫が必要な部分として、最も大きいのはセールスサイクルの期間だという。エンタープライズ企業の購入では、通常、製品を選定するチームと経営者による承認が必要になるため、企業をナーチャリングするプログラムや、エグゼクティブに対するハイタッチのイベント、つまり理解を深めて関係を密にしていく対面の機会などが求められる。また、同社のソリューションは自社のセールス部門だけでなくチャネルパートナー経由でも販売しているため、営業やチャネルを支援する活動も必要だ。
個人向けの製品は主にWebサイトで販売しているため、マーケティングはサイトへのアクセスを増やすことや、製品のトライアルや購入につながるサイト上の顧客体験に重きを置いている。さらに、特にクリエイティブ製品のユーザー向けには、コミュニティを通じたマーケティングをとても大切にしている。製品の使い方やクリエイティブのインスピレーションを提供するために、BtoCではコミュニティの存在が不可欠だという。

創造的破壊を恐れず自社がリーダーたれ
定額制のサービスは新規獲得と同時に、既存ユーザーの継続率と継続日数も重要になってくる。これらを高めるという観点でも、前述のオールウェイズ・オンのマーケティング戦略によって、顧客に継続的に価値を提供することに注力している。顧客からのコメントをただ受け止めるだけに終わらせず、対話を継続して行うことが不可欠だ。“Creative Cloudのイノベーションによる新しい機能を、より頻繁にお客様にお届けするという約束を守り続けることが大事”との考えの下、その実行に努めている。
ここまで、アドビ システムズのサブスクリプション型へのドラスティックな転換にどのような考えがあったのか、またいかにそれを成果に転換してきたかを紹介した。販売方法やサービスの提供方法が変わることで、最も影響を受けるのは当然ながらユーザーである。そのユーザーを大切に、密にコミュニケーションを図りケアすることで、満足度を維持そして向上させている様子がうかがえた。
定額制でビジネスを成長させるために、本質的に求められることについて、同社は“お客様に継続的な価値を提供し、過去のビジネスモデルでは提供できていなかった価値の源を作り出す必要がある”と捉えている。過去と同じソリューションを、ただ異なる方法で提供するだけでは、会社にとっても顧客にとっても意味がなく、発展性もない。過去の成功にこだわらず、自社の資産をも創造的に破壊していくことを恐れない、オープンなマインドで挑むことが大事だという。
同時に、自社のソリューションをこれまでとは違う角度から見つめ直すこと、また自社が行うことや提供する価値について、透明性を高く保つことも重要だとする。
最後に強調するのは、自社や自社の業界、また周りの業界に起きている変化を知ることが不可欠である点だ。“他者が創造的破壊を起こし、クラウドや他のビジネスモデルに転換するのを待っていては遅すぎる”との見解に、自らがリーダーとなって、変革を起こしていく強い姿勢が感じられた。
