Business Insiderがads.txtを導入した経緯
先にも触れたが、プログラマティック広告が配信されて消費者に届くまでには、「広告プラットフォーム・DSP」や「アドエクスチェンジ・SSP」が介在する。
高瀬氏は、Business Insiderが「ads.txt」を導入するきっかけになった、ドメインスプーフィング=なりすましが発覚したエピソードを紹介した。
ads.txt:偽造広告枠や不正インプレッション販売を防止するツール。「ads」とはAutorized Digital Sellers(公認されたデジタル販売者)の略。「ads.txt」自体はテキストファイルであり、これを通じてパブリッシャーは公式に販売を許可している広告システムを宣言できる。DSPはその宣言を読み取ることで、なりすましではないサイトであることを確認し、安心して広告枠を入札をすることができるという仕組み。
「DSPを介して『プライベートオークション』でBusiness Insiderの広告枠を購入している広告主から、『オープンオークション』で同社の広告枠をより安価なCPMで大量に購入できているという連絡がありました。
しかし、Business Insiderが調査したところ、この広告主が購入している広告枠はわずか97ドル分だったことが明らかになりました。同社はさらに調査をすすめ、パートナーシップを結んでいる複数の広告主から広告リクエスト先のリストを共有してもらったところ、取り引きのないアドエクスチェンジ/SSPが散見されたとのことでした。すなわち、Business Insiderがドメインスプーフィングを受けていたことが判明したのです」
「これを受けて同社は、ads.txtの導入に踏み切ったとのことでした。ads.txtに準拠した買い付けにDSPが対応している場合、ads.txtに記載のないアドエクスチェンジ/SSPベンダーは基本的に入札対象から除外されるため、ドメインスプーフィングの被害を減らすことができるのです」
「バイサイドのJPモルガン・チェースとセルサイドのBusiness Insiderのケースから、プログラマティック広告の現場では今後、量よりも質が重視されていくと考えています。オープンオークションで大量の広告枠を安価に購入できることがプログラマティック広告の革新的な部分でしたが、普及していく過程で歪みも発生し、質の問題が浮上してきました。特に大手のブランド・パブリッシャー間の広告取引においては、一定の質を担保するプライベートオークションの比率が大きくなっていくことが予想されます」
このエピソードからは、日本のプログラマティック広告の現場においても、大いに学ぶべき教訓が含まれている。
AIをいかに導入・活用していくべきか?
続いて高瀬氏が「PROGRAMMATIC I/O」のセッションから紹介したのは、デジタルマーケティングの現場でのAI活用に関する2つのパネルディスカッションだ。参加者は計5人。AIマーケティングプラットフォームを提供する企業のCEO3人とAIの開発を手がける企業のCTO、そして広告代理店の役員によるパネルディスカッションからの発言が紹介された。
「デジタルマーケティングの現場でのAI活用で、一番のメリットとされているのが膨大な既存顧客のデータをスピーディーに解析して関連性などを正確に導きだせる点です。しかし、データが部門ごとに分断されているケースも散見されます。つまり、データを分断、すなわちサイロ化させないことが活用のポイントとなります。
一方でデジタルマーケティングの現場では、やがてマーケタ―の仕事がAIに奪われてしまうのでは? という危惧がありますが、参加メンバーからはこれを否定する意見がありました。
現時点で、AIよりも人間のほうが優れているとされる資質や能力について『想像力を発揮できる』『ブランド戦略をゼロから立案できる』という意見がありました。さらにAIを導入することで、『仕事がより楽しくなる』『AIに得意な業務を振り分けることで、マーケタ―は誰にどんなメッセージを届けるかという重要な仕事に集中できる』といった意見もありました」
「マーケタ―はブランド戦略の立案をはじめメッセージづくりやターゲット設定などプロセスに応じて幅広い業務を手がける必要があります。
このディスカッションの内容に基づいて考えると、AIを有効活用すれば、このうち『メディアプランニング』や『ターゲティング設定』『広告配信』、そして『結果分析・最適化』のプロセスは過去の事例をデータセットとしてAIに学習させることで効率化・迅速化が図れるというメリットがあります。その分、マーケタ―はより高度なブランド戦略の立案や効果の高いメッセージづくり、メッセージを届けるターゲット選定により多くの時間を活用することができるでしょう」