自分らしい写真を手軽に表現したい
――なるほど。何か、再起のきっかけやタイミングなどあったのでしょうか?
最初の兆しは東アジア地域で放映されていた人気ドラマで小道具として使われたのがきっかけです。チェキが話題になり、アジアを中心に少しずつ伸び始めました。この流れを分析するとともに、さらに追い風にできないかとマーケティングを強化し、この流れを欧米に広げていきました。
東アジアの最初のブームをみてみると、10〜20代女性がブームの中心になっているのは以前と同じでしたが、彼女たちはデジタルネイティブであり、スマホを肌身離さず持ち歩き、デジタルデバイスが普及したからこそ一層写真と日常的に触れ合う機会が多いことが大きな特徴でした。保存や思い出の整理といった意味合いを持っていた写真が、彼女たちの中では「見せるもの」「共有するもの」というように位置づけが変化していました。
一方で、写真が身近になったため、SNSには非常に多くの写真が溢れています。そのような変化の中で、前述のようなアナログ的な質感で自分らしさを表したり、チェキで撮った写真をさらにケータイで撮ってアップする「フォト in フォト」という楽しみ方が生まれたりと、オリジナルの自己表現ができるツールとしてチェキが改めて受け入れられていることを認識しました。老若男女、誰でも使えるシンプルな操作性も、使用ハードルを下げ、再ヒットの大きな要因になったのだと思います。
デジタル時代がチェキの魅力を引き出した
――そうなんですね。デジタル時代になったからこそ際立ったチェキの良さは、具体的にどんなところだとお考えですか?
ひとつは、ヒューマンタッチのコミュニケーションができる点だと思います。以前もチェキの写真はコミュニケーションツールとして活用されていましたが、写真に実際にメッセージを書き込んでプレゼントしたりするやり取りが、デジタルネイティブ世代にとても新鮮に映っていました。
プリントしたらその1枚がオンリーワンになるという希少性も、いくらでもデジタルデータをコピーできる環境下ではひとつの価値として捉えられているのだと思います。また、プリントがじわっと出てくるまでどう写っているのかわからないという偶発性や、待つ動作も、アナログ特有の要素です。デジタルは効率的でより理想的なものを作れますが、完璧ではないもののおもしろさも必ずある。昔の写真の、意図しないブレやボケもそうですよね。そのような要素をおもしろがる感覚は、デジタルネイティブである若い人の中にもやはりあるんだなと。
これら複数の点を加味して、デジタルが、チェキの魅力を改めて引き出したのだと考えています。そのようなターゲットに向けて発売したのが、「世界で一番カワイイインスタントカメラ」というコンセプトの「チェキ instax mini8」です。これが日本を含むアジアの若年女性層に一気に受け入れられ、再ブレイクに至りました。以降、カメラ、フィルム、アクセサリー等の各種ラインアップを拡充し、ターゲット層を広げながら右肩上がりで伸ばしています。
――現状のラインアップと、それぞれのターゲットをうかがえますか?
2013年には、高機能と高級感にこだわった大人のガジェット「instax mini90 ネオクラシック」を発売しました。デザインも男性を意識したため、これまでメインターゲットではなかった中高年男性からも購入され始めました。欧米ではアジアでの受け入れられ方と少し異なり、instaxはクールなガジェットとしてヒットしており、mini90もヒット商品になっています。
2014年にはスマホ用プリンタの「instax SHARE SP-1」を発売しました。スマホの写真をWi-Fiで送信すると、チェキフィルムにプリントされるものです。日本では「スマホdeチェキ」というわかりやすい名称にしています。チェキカメラの実機を持っていないスマホユーザーにも、スマホの画像をプリントアウトする楽しさを知ってもらいたいという意図で企画したものです。
こだわるべき特徴とニーズとのバランス
――スマホdeチェキは新規性の高い商品でしたね。

はい、デジタルの機構を取り入れてサービスの幅が広がりました。デジタル写真が一般化すると、どうしてもデータのままためてしまいがちで、そのままだとなかなか見返すこともなく、コレクションとも言い難い。当社では、他のフォトブック商材なども含めて、写真1枚1枚の価値を上げていくことを重要なポリシーにしています。スマホdeチェキを使って、プリントとして形に残す良さを伝えられればと思いました。
尚、カメラは、大人気モデルのmini8をスイーツをイメージした本体カラーに刷新し、セルフィーミラーを付けた「mini8+(プラス)」を発売、2017年5月にはハイブリッドインスタントカメラ「チェキスクエア instax SQUARE SQ10」を発売しました。新たにスクエアフォーマットを採用し、デジタル技術を搭載したことで、撮影時と撮影後に画像を見ながら編集することもできます。
――プリント前に画像を確認できてしまうと、普通のデジタルカメラと変わらなくなるのでは?
そうですね、事前に見られるならチェキではないのではと、社内でもかなり議論がありました。偶発性があるからこそのチェキじゃないか、と。でも、実際には「事前に見て安心してからプリントしたい」というユーザーの声が数多く存在しました。我々がこだわりすぎてユーザーの要望、トレンドを無視してはいけない、これを使って楽しんでいただくのが最終的なゴールだろうという結論になりました。もちろんチェキの偶発性が好きだという人もいるので、従来どおり確認せずプリントされるモードも選べるようにしています。
――ちなみに、スクエアを導入したのは?
それは、Instagramを代表とするSNSやスマートフォンにおいて、一般的なフォーマットとして浸透しているからです。ただ、写真の歴史の中でも、約90年前からローライフレックス社、ハッセルブラッド社の四角形のフィルムカメラは写真愛好家によって高い評価を得ており、スクエア型は今始まったものではないんですね。以前から一定のファンがいるスクエア写真に、今若い人がSNSを通じて慣れ親しんで再燃しているため、商機ありと考えました。
追って秋には、スマホ用プリンタもスクエアバージョンを発売しました。