オンリーワンとナンバーワンで距離の壁を壊す
――日本最大のテーマパークとは存じていましたが、実際に来てみるとテレビ番組などで見るよりも広大で圧倒されます。東京や大阪からはどうしても距離がネックになると思いますが、東京からの来場割合を3倍にしたと。資本が変わってから、マーケティングにおいてどんな変化があったのでしょうか?
私はちょうど経営が変わった翌年に入社したので、周囲から聞いた情報も含めてですが、大きな変化は2つあると思います。ひとつはすべての企画に「よそがやっていないことをすべきだ」という前提を皆が持ち始めたことです。
東京や大阪からの来場が難しいのはまさにその通りで、長崎のそれも佐世保は日本の西の端、向こう側は海なんです。それはそれで、立地を活かして2016年から開催している「日本最大級の海上ウォーターパーク」がヒットしたりしていますが、基本は東側から人に来てもらう必要があります。長崎県の人口は東京の約10分の1なので、存続のためには「県外から来てもらう」ことが不可欠でした。
ただ、長崎空港から1時間ほど、福岡からでも約2時間かかります。たとえば東京の人が、横浜でも同じイベントをやっているのに2時間かけて御殿場や高崎にわざわざ行くでしょうか。仮に高崎でしかやっていないとして、子どもを連れていくお父さん、彼女を連れていく彼氏だったら、2時間かけて失敗はしたくない。そのため、ハウステンボスでしかやっていないことにこだわり、かつ「日本一」や「世界最大」など、わかりやすく打ち出せるようにしているんです。
イベントもPDCAで期間中にどんどん改善
――「ここにしかない」というのは、この距離という壁を超えてもらうための説得材料なんですね。
その通りです。澤田がよく「オンリーワン、ナンバーワン」と話しているのもそういうことです。以前の「企画が魅力的なら人は来てくれるだろう」というスタッフの発想が切り替わったことは、集客に大きく影響しています。
また、ここにしかない企画を立てるには、情報が命です。日本や世界を持ち出すために、海外の情報にも常にアンテナを張ってもちろん自分たちでも調べますし、基本的に他社からのご提案はすべてお聞きするようにしているため、いろいろな観点の情報が集まってきます。なんの材料もないと考えられないので、いかに情報が上がってきやすい環境を作るかはとても大事ですね。
――では、もうひとつの変化は?
「とりあえずやってみよう」という姿勢が根付いたことです。類似がない企画は、考えたところで本当に人が来るのか、成功するのかはわかりません。だったら頭で詰め切るのではなく、まずチャレンジしてみて、改善の余地があるなら改善し、難しければすぐに止めて次に行けばいいという精神が浸透してきました。だいたい6割ほど企画が固まったら進めてみる、という感覚です。
問題が起こる前提で取り組むので、当社のスタッフも打たれ強くなっています。問題を超えて完成度を高めるのが、上司含めて皆当たり前だと思っているので、失敗を恐れない。それは大きな体質改善だと思います。
――そうなんですね。Web広告では運用してみてPDCAを回すのは一般的ですが、リアルなイベントだと、始まってから期間中に内容を変えることは珍しいのでは?
そうですね、あまりないと思います。我々だと、たとえばチューリップのイベントを開催中の2ヵ月の間に、写真スポットの位置を変えたり反応が薄い催し物はなくしたりと、どんどん変えています。
超えるべきは去年の自分たち
――その変更していく拠り所になっているのは、なんでしょうか?
ひとつは、場内アンケートです。細かな改善に随時活用する他、企画の評価を総合して5点中3.5点に満たなかったら、担当者によほどの改善策や意欲がなければ取り止めます。自己満足ではなく、やはり喜んでいただけないと存続できないので、そこはドラスティックに判断しています。
もうひとつは来場者数ですね。事務所のモニターに、15分ごとに来場者数を表示しているんですが、そこに現在と前年の同じ日時の数字が並列に出るんです。もし前年と比べて客足が落ちていたら、何か原因があるはず。それをすぐに分析して、明日につなげることを地道に毎日続けています。
――具体的に、どういった工夫をしているのですか?
前年同月や同日より企画の質を上げるか数を増やすか。あるいは、圧倒的に異なる魅力を打ち出すか。この2つですね。
我々の目指すところは非常にシンプルで、毎月、毎日、去年の今日より多くの方に来て欲しいんです。そのために、単純ですが去年より花の数を増やすとか、そういう工夫も含めて“よりよく”していく。オンリーワンを目指すと外部との比較もしづらいので、超えるべきライバルは去年の自分たちだと捉えています。
