販促キャンペーンの一歩先へ ブランド・ロイヤルティを生み出すために
バーガーキングの初動の目的は、これまでの「販促キャンペーン」のような「お得感」→「来店・売上」を直接期待する訴求ではない。ユーザーとブランド・ロイヤルティでつながる感情を動かし、満足度、コミットメントを引き出すことにある。そのキッカケが「毎月5ドル」で、プレミアムなコーヒーを提供しますよ、という先出しオファーなのだ。
バーガーキングはこのキッカケの次の手として、既にNetflix人気シリーズ番組の「Chef’s Table」のディレクターDavid Gelb氏とともに、「コーヒーに対するこだわり」を伝えるビデオに投資・配信している。このビデオ投下は今回のサブスクを契約してくれたユーザーに対して、さらに満足度を高めてもらって、太いコミュニケーションを期待する発端がうかがえる。ビデオの投下目的が、いわゆるマーケティング上でのCPAに代表される「刈り取り」や売上向上ではない、新しい投資だ。「匿名の通行人顧客」から「契約したサブスク顧客」に転身してくれた消費者に対して、ロイヤル・カスタマーとしてのLTVを育てるために、ビデオコンテンツに投資を行っている。
サブスクで広がる顧客接点を軸に広がる位置情報の活用
昨年、バーガーキングは競合のマクドナルド店舗付近に来る顧客を対象に、自社の人気バーガー「Whopper(ワッパー)」を1セント(約1円)で購入できるキャンペーンを展開したことがある。顧客が起動しているアプリの位置情報を使い、マクドナルドの広大な約14,000店ネットワークを逆に利用した。バーガーキングの店舗数は約半分の7,000店程である。位置情報を活用した、土地接点の多さを使った販促キャンペーンだった。
店舗における位置情報の利活用と言えば、このような「付近にチラシを撒く」ような使い方が多く、販促の視点での目的にとどまっていた。その点においてこの度のバーガーキングによる「月額5ドル、コーヒーのサブスク」は、販促刈り取りよりも「同じ顧客の来店回数」「同じ顧客からのコーヒー以外の売上高」が指標となり、一人あたりのLTVの最大化を目指すために(チラシ活用であった)位置情報すらが活用される試みだ。
これまでのモバイル環境下において、「お買い得情報」を届ける上でのネックは、ユーザーのアプリが常時起動していないことであった。バーガーキングによる「コーヒー」という日常の習慣を起点としたこの施策は、ネックとなっていた顧客と企業との間の壁を取り、「双方向」の間口を広げる契機となる。
実は筆者は、このバーガーキングによる「目からうろこ」の施策にすらまどろっこしい「壁」を感じる。一刻も早く、アプリをダウンロードする「壁」が不要になって欲しいと望むばかりだ。名前とクレジットカード情報を都度入力する必要のない「信頼された」プラットフォームサービスを提供する技術は既に存在している。先陣を切ってその気構えを持った企業が登場する日が待ち遠しい。