なぜ男性は「ダイバーシティ」に当事者意識を持てないのか?
白石:なるほど。まさに男性も社会からの無意識の偏見に苦しんでいると。先生の著書を読んでいて、これは勇気づけられる男性も多いんじゃないかなと思いました。
田中:いや、それが、僕の本は男性は読まないんですよね。圧倒的に女性が多い。
白石:えっ、そうなんですか? 男性にすごく役立つ話が多いと思ったので、意外です。
田中:やはりジェンダーの問題なので、女性が自分の生きづらさを考える延長で男性の問題にも注目され、手に取られる方が多いようです。
これは、冒頭で白石さんがおっしゃった「ダイバーシティの問題に男性が当事者意識を持てない」という点に通じるかもしれないですね。ダイバーシティとは本来、個の多様性を指しているから、ジェンダーだけでなくLGBTや社会的マイノリティなどの包摂も意図していて、男性にも決して他人事(ひとごと)ではないんですが。
白石:そうなんです。ダイバーシティとはジェンダーの話に限らないのに、こと企業が「社内のダイバーシティ向上に取り組んでいる」といったアウトプットは、イコール「女性」という属性にのみフォーカスが当たってしまう傾向は強いです。
世界的に見ても日本のジェンダーギャップ指数が低い現状からも、企業の「ダイバーシティ」に対するアプローチが「女性」に特化されるのは理解できるところもありますが、男性も当事者意識を持たないと結果的に本質的な効果につながらないように思います。冒頭の広告のように、海外ではマーケティングの側面で男性ユーザーに「らしさ」を訴える例が既に出てきていますが、日本ではそもそも「男性が男性の問題を考える」というスタートラインに立てていない感じがしています。
田中:そうですね、遅れていると思いますし、そこに「男性がダイバーシティの当事者として関心を持てない」ことの一端もあると思います。

日本社会の本質はどう変化しているのか?
田中:ただ、少し日本社会をひも解くと、他人事なのは仕方ない部分もあるんですよね。なぜなら、今50~60代のおじさんの周りの女性たちは常に「辞めてきた」から。自分の奥さんも、同期の女性も、部下も。「定年退職者」というと、100%おじさんを思い浮かべませんか?
白石:たしかに。女性で勤め上げる方ももちろんいますが、圧倒的に男性と比較すると少ないということですよね。
田中:1980年代後半から2010年代ごろまでは、就業している女性のおおよそ7割が第一子出産を機に辞めています。2010年代は少し減りますが、それでも6.5割以上は辞めているのです。日本はこの50年ほど、「男は稼いで女は家庭を守る」という性別役割分業が浸透していたんです。
一方、経済的には前述のように低成長時代を迎え、専業主婦だった奥さんがパートに出て、今はフルタイム共働きが主流になりつつある。そこだけ見ると社会が変化したように見えますが、実は本質は変わっていないんです。たとえば、共働きでも子どもが小さい家庭は女性の側が時短勤務をすることが多いですが、それは時短による減給の影響が男性よりも小さいからという理由が大きいですよね。だから今も結局、男性が大黒柱で女性がサブであることは変わっていない。
白石:そうですね。今、減給の話が出ましたが、私も男女の賃金格差がなくならない限り、女性がいつまでもサブ的な役割になってしまうという点は、男性の多様性を考えるときにもネガティブ要因になると思います。
田中:そこは大きな問題で、その基本的構造が壊れない限り「男性は40年働き続ける」のが普通だといわれるつらさは変わらないんです。
ただ、もう少ししたら自動的に変わるだろうという見方もあります。今、男女ともに結婚しない人が増えているから、当然ですが結婚しない女性は働き続けます。NHK放送文化研究所が長年続けている意識調査でも、「結婚する・しないは個人の自由」と考える人は7割、「子どもの有無」についても6割が自由だと思っています。