セールスフォースが営業を科学できた理由
西口:今回は、実は初めてお会いするんですが、現在アドビにてマルケト事業を率いる福田さんをお招きしました。MarkeZine読者の皆さんには『THE MODEL』著者といってもピンときますよね。
僕も拝読しました、BtoBの領域の方なので自分とは違う領域を勉強するつもりで読んだら、意外にも顧客を見る考え方やミクロとマクロを行き来する思考などは完全に同じで、実務家の発想だと深く共感するところが多かったです。
福田:うれしいですね。私も西口さんの書籍をとても興味深く拝読しました。
西口:今日は、BtoBにおける成功の秘訣はもちろん、現場から経営まで見通す福田さんの視点で、今部門横断的に横たわる課題やこの先の展望をお聞きしたいです。
まず著書の冒頭にもありましたが、福田さんは2004年に米セールスフォースでマーケティング、インサイドセールス、営業の分業体制を学び、それを「The Model」と名付けて翌年に同社日本法人へ着任された際に導入されたんですよね。そもそも、なぜセールスフォースでは科学的な営業の管理ができていたんでしょうか?
福田:セールスフォースの場合はシーベル・システムズという巨大な競合が大手企業を押さえていたので、SMB市場にいかざるを得なかった背景がひとつあると思います。その数の多さから、必然的に科学的なアプローチが必要でした。また、デジタルマーケティングが広がり始めていたことも、対面営業以外のアプローチに追い風でした。
ただ、そもそも米国にそういう土壌があると思いますね。私が2001年に米オラクルに出向したときに、最初に「そういう発想があるんだ」と驚いたのを覚えています。
米国では80年代から実践されていた営業管理
西口:米国の営業スタイルが元々、日本で営業と聞いて思い浮かぶような“個人技”ではなく、受注までのプロセス管理が明確になっている?
福田:そうですね、私も営業は個人技というイメージがあったので、書籍をあたって初めて「学問的に学べる体系化されたもの」と知りました。調べてみるとネットがない80年代のころから、実はオラクル出身者などが営業のプロセス管理をきちんと定義して実践していたんですね。
たとえば広告を出すときも電話番号を変えて、どの番号に入電したか判定して効果測定したり、セミナー前には電話ヒアリングをして確度を確かめて、当日は名札を色分けして営業マンがすぐ判別できるようにしたり。これって、アナログとデジタルの違いはあっても、今と同じですよね。
西口:確かに。このプロセスを日本企業も取り入れればいいのに、あまりできているように見えないんですが、なぜなんでしょう?
福田:そうですね……難しいところですが、ひとつは昭和的な成功体験を捨てられない、ということなんじゃないかと思います。スタートアップ企業では、日本でも変わってきていますね。あと、大企業でも本当に危機感を持っている会社はシフトしています。
もうひとつ挙げるとすると、結局営業もマーケティングも、経営もそうだと思いますが、体系的に何かを整理することがすごく下手な国民性なのかな、という感じはしています。あるいは、整理するのは得意でも、実践するときに結局「あ・うん」の呼吸でやってしまう。