デジタルトランスフォーメーションの本質とは
――日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)ということが盛んに言われていますが、先日開催された「Salesforce World Tour Tokyo」の基調講演で、小出さんが繰り返し言及していた「顧客の360度理解」と「すべてがつながる」ということが、DXの本質なのではないでしょうか。というのも、DXの議論では「何のためにやるのか」の部分が弱いように感じていたからです。
小出:原稿を見ずに話し続けるのはなかなか大変なのですが、伝わりましたかね。でも一番大事なのは、デジタルトランスフォーメーションには正解がないということなんです。たとえば「コストを大きく下げられる」ということをデジタルトランスフォーメーションだととらえている企業もあれば、「事業モデルそのものを変える」というところまで踏み込むのがデジタルトランスフォーメーションだと考えている人たちもいる。

2019年9月に開催された「 Salesforce World Tour Tokyo」のもよう。
中央に立つ小出氏は広い会場をめぐりながら基調講演を行った(写真提供:株式会社セールスフォース・ドットコム)
デジタルトランスフォーメーションがステージ1、ステージ2と進んでいく中で、どこで何をゴールと設定するかは、経営者がきちんとしたビジョンとして示していかなければいけないと思います。ただ日本企業の場合、取っかかりとして非常にやりやすいのは、やはり「コスト削減」といった部分ですし、そういうことを意識されるのは当然だと思う。
――セールスフォースとしては、「顧客の360度理解」「すべてがつながる」という世界の中で、その中心にCRMがあって、企業がそれを活かしてビジネスを成長させていくための支援をしていくということになるでしょうか。
小出:「Salesforce Customer 360」の根底に流れているのは何かというと、すべてのものがつながっている先に顧客がいるということ。「つながっていること」それ自体がすごいというわけではありません。顧客は企業以上に情報にアクセスし、情報武装できる状況にあります。それが第3次産業と第4次産業革命の大きな違いです。その中で、顧客が期待している以上の体験を提供しない限り、企業は差別化できない。
たとえば、アメリカの新車購入の90%以上は、ディーラーに行く前に顧客自身が事前に調査をしています。ということは、ディーラーに車の特徴をたずねる人はあまりいない。ディーラーでは、まず試乗したい。見るだけではなくて感じてみたい。あるいは、自分が乗っている車の下取り価格、つまりファイナンスのローンの説明を知りたいと思っている。そうなると、ディーラーの仕組みそのものも変わってきます。
今は、顧客の行動パターンを読んで差別化した情報を提供するといったビジネスモデルそのものの議論に入っていく時代になりつつある。そこに踏み込んだ人たちが、おそらく何らか勝利の方程式を作って市場を席巻していくでしょう。そういうことの繰り返しがデジタルトランスフォーメーションなのだと思います。