革新と平等、セールスフォースの成長を支えるもの
――セールスフォースは今年4月に、2024年までの5年間で3,500人規模の組織にすること、そしてアジア初のSalesforce Towerを日本生命丸の内ガーデンタワー内に開設することを発表しました。そのニュースはMarkeZineでも2,000以上のいいねが付くほど大きな反響がありました。
小出:我々の業態にとって優秀な人材をいかに集めるか、そして「この会社は魅力的で、そこで働くことはすばらしい」と思ってもらえるかはとても大事なことです。そのために、働くことが楽しいと思えるような場所を提供したいし、この会社で働くということは日本の中ですごいステータスだと思えるような環境にしたい。2019年には、日本における「働きがいのある会社」ランキング1位にもなりましたが、そういうことと、3,500人体制や新しいヘッドオフィスを作ることはすべてリンクしています。
セールスフォースに私が入った時は新卒採用をしていなかったのですが、やはりイノベーションを起こす重要な要素はダイバーシティです。学生は新しい情報網や新しい価値観を持っていますし、BtoCでいうとCに近い存在でもある。そういう人たちの採用を毎年増やして一緒に成長していくことは、この会社がイノベーティブであり続けるために必要な遺伝子なのです。
――私たちが取材をしていると、マーケティングに理解のある経営層や現場のマーケッターには、セールスフォースを目標にしている人や、セールスフォースの組織体系を採り入れている会社もあります。クラウドもそうですが、カスタマーサクセスやThe Modelのようなコンセプトも含めて、多くの人がセールスフォースは革新的だというイメージを持っていると思います。そういうブランドイメージのために、小出さんが心がけてきたことはありますか。
小出:ひとつには、我々のコアバリューの重要な要素に「イクオリティ(Equality)」、つまり「平等」を掲げています。互いに多様性を認め合うという平等な環境があれば、新人が来ても、キャリアを積んできた人がいても、ひとつのフィールドで認め合うことができる。その多様性をうまく融合できるということがイノベーションを起こす非常に重要な起爆剤だと思っています。
賃金格差や昇進に格差があるという環境では、イノベーションを起こすのは無理だと思う。誰もがちゃんとパフォーマンスを出して、きちんと意見を言える、もしくはアイデアを出せる。それをしっかり吸い上げる仕組みがある。これらの積み重ねがイノベーティブな環境を生み出すので、そこには他の企業以上に努力していると思います。

今年の4月には「東京レインボープライド」に参加して、LGBTQの方々と原宿や代々木を1日かけて歩いてみたのですが、そこで初めてわかることもいっぱいありました。経営の本質を左右するのは、経営陣がそういうことを本当にやっているかということ。セールスフォースは、マークもキース(・ブロック)も経営会議だけではなく、こういう活動によく参加していますよ。
――来年は日本法人設立20周年を迎えます。今後の展望についてお聞かせください。
小出:経営は常にステージが変わるのでゴールは次々に変わっていきます。いろいろな成果も出ていますが、これからもチャレンジを続けていく必要がある。少なくとも5年半前に、私がセールスフォース日本法人を担当してから立てている目標は、かなり前倒しで達成してきています。売上や従業員数だけではなく、日本ではじめて採用された、すべてを日本法人にデリゲーション(委任)するというモデルを成功させること。それが他の国にも展開可能になるということも私にとって重要なメトリクスです。
日本法人にすべてが任されているというのは、他の大手外資IT企業とも違うところです。セールスフォースが始めたこのモデルを、日本からいろいろな国に展開していく構想を実現することは、経営者としての私にとって一番重要なマイルストーンなのです。