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マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

データサイエンスとビジネスの距離を縮める ソニー銀行が挑む、データドリブン経営への変革

データに基づいてビジネスを推進する体制作り

――たしかに、そんなふうに感じられます(笑)。では、ソニー銀行に入られた経緯とミッションは?

 ソニー銀行の「会社全体をデータドリブンで動ける組織にしたい」というトップの意向のもと、2017年に声をかけてもらいました。ほぼ100%のネット銀行で、経営陣がデータの重要性を理解しているのはプラスだと思いましたし、いつの時代も独自の価値を世の中に送り出してきたソニーグループ自体にも、魅力を感じましたね。

 当時の課題は、顧客データをはじめ各種データは相当に入手できるものの、実践的な形で可視化されておらず、そのために各部署や社員にデータ起点のマインドセットがなかなか根付かないことでした。なので私の当面のミッションは、実際のマーケティングに“使える”形でのデータ基盤の整備、データドリブンマーケティングを推進できる体制作りとマインドの醸成でした。

 そうして同年11月に入社し、まずデータアナリティクス部を発足して、同時にCXデザイン部も統括することになり、改めて「コンテンツ企画部」としてマーケティングオペレーションの安定した実装を達成しました。そして「マーケティングサイエンス部」として部内にアナリティクスやCXも収めて運営しているのが現状です。

マーケティングを“サイエンス”する

――マーケティング“サイエンス”という部署名は、あまり聞き慣れないのですが、思い入れがある名称ですか?

 そうですね! データドリブンでビジネスをしていくことは、つまりサイエンスです。「マーケティングをサイエンスする部門」として社内外に宣言し、しっかり実現していきたかったので、この名称にしました。

――今、参画されてから2年強ですが、ここまでの経緯をうかがえますか?

 最初に取り組んだのは、皆が使える形でのデータベースの整備です。

 個人情報を扱う銀行という業態において、セキュリティは切っても切れない観点です。でも、商品開発やマーケティングには、実はデータ全体の一部があれば十分ですよね。個人が特定できる情報を除くなど、一定の措置をとればもっと攻めたマーケティングは可能なので、まずそれに取り組みました。

 具体的には、小さなデータマート(データウェアハウス全体から特定条件で切り出したデータ群)を扱いやすいツールを導入して、(1)セキュリティ上のリスクの低減、(2)簡単な操作性、(3)誰がどこで使っても同じ結果を得られる再現性、の3点を担保しました。特に3つ目の再現性は重視しています。一人で進めるわけではありませんから。同時にトップ、経営陣、現場とレイヤーが違うと見たいデータの粒度も変わりますが、どのような粒度でもすぐに条件設定して状況を可視化できるBIツールも導入しました。

 チーム作りに関しては、一人ひとりの得意分野を見出して、各人が補い合えればいいという考えで少しずつ体制を整えてきました。私の経験から、データドリブンマーケティングの推進に必要なスキルセットは、8つほどあります。たとえば他部署にも共通して言える「業界・ビジネス・顧客行動への理解力」、「プロジェクトマネジメント力」、「コミュニケーション力」です。加えて、ある程度は資質かと思いますが、「ロジカルシンキング」、「クリティカルシンキング」さらに「データ分析力」、「データマネジメント力」、「統計ツールなどの活用力」などがあります。これらを各人が持ち寄るイメージです。3.5人で漕ぎ出して、今6人の体制ですね。516人(2019年9月末時点)の組織を支えるには、10人弱が必要だなと見込んでいます。

「シュトケンの定義とは?」分析メンバーとの共創が重要

――ご自身が任された部門の足場固めをされる一方で、冒頭の社員向け研修の準備もされてきたわけですね。これについてはどのような方針があったのですか?

 全社的な人材育成については、「データサイエンスとビジネスの間をつなぐ人材」を育てたいという考えがまずありました。どんなに優秀なサイエンティストがいても、ビジネスとの橋渡しができる人がいないと、ビジネスに活かせないからです。

――今、各社がデータサイエンティストの確保に苦戦し、育成にも力を入れていますが、そうではなく「つなぐ人材」の育成なのですね。その発想は、なぜ生まれたのですか?

 これまでの経験で、私自身がデータ分析に携わりながら、もっと専門的なたくさんのデータサイエンティストやアナリストと接してきました。ある会社では分析部門がインドにあって、時差を考慮しつつ日々電話でやり取りをしていました。そのときは、時差以上に文化の差があったので、たとえば「1都3県だと適さないようなので首都圏で切ってみてくれないか」と言っても「シュトケンの定義とは?」みたいな話になっていたんですね。

――なるほど、説明しにくい……。

 ですよね。端的に言えば、東京+3県のうちでも都心に通勤しうるエリアとなりますが、その切り方も案件によって変わります。ここがうまく伝わらなくて、本当は分析次第で宝のような発見ができるかもしれないのに、ビジネスサイドからすると「それはそうだろうな」という結果しか得られないことがしばしばありました。

 でもこれって、何も対インドでなくても、よく起こることなんです。なぜならデータサイエンティストの方々はデータの扱いには長けていても、今この市場において大事なビジネス上の観点は把握していないことが多いのです。その重要性を、彼らが腹落ちするまできちんと説明できないと、ビジネスでワークする分析結果は得られません。

 以前、「とにかくデータサイエンティストが必要だ」との号令で外部からかき集めたこともあったのですが、結局それだけでは機能しませんでした。インドの話をすると「それはそうだな」と皆さんわかると思うのですが、意外と見落としがちな視点です。

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この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

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MarkeZine(マーケジン)
2019/12/25 13:00 https://markezine.jp/article/detail/32613

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