挙手制でブートキャンプを実施
――だから、つなぐ人が必要なんですね。その人材に必要な素養は何でしょうか?
基本的には、やる気ですね。――やる気! そう(笑)。分析の専門性はサイエンティストが担うので、データ分析の基礎知識とデータに対する感性、ビジネスの状況を客観的に伝えられるコミュニケーション力があれば、大丈夫。
今回の初めてのブートキャンプで新入社員全員を対象にしたのは、いわゆる勘と経験に基づくような従来のマーケティング手法を知らない状態でデータドリブンの思考を身に付けてほしかったからですが、既存社員はこの「やる気が大事」という点から、挙手制にしました。日程の関係などから、17人の新入社員に対して7人と少なめになったものの、マーケティングや商品企画はもちろん、財務、リスク管理やオペレーションなどの事務系など、参加者はバラエティに富んでいましたね。
新入社員も既存社員も、研修を終えたら各部署に散っていくので、そこで周囲に好影響を及ぼしてくれることを期待しています。既存社員はその後1年にわたって予定しているフォロー研修の出席も義務付けているので、回を重ねて草の根的に社内全体の体質を変えていきたいと思っています。
ブートキャンプでは実践的な課題に取り組んでもらい、「データを見て考えよう」「データはこうだった」といったデータ起点のディスカッションが多く聞かれ、仮説立てと検証、解決策のプレゼンまで漕ぎ付けていました。データドリブンのマインド醸成に、一定の効果があったと思います。

――では、この2年の全体的な手応えは?
これまでの経験から、データ基盤の整備と体制作りが完了するまでに、3年はかかると見通していました。2年が経って、この最初の地点までもう少しというところです。理想的なデータドリブンマーケティングを推進し、全社で新たな価値を継続的に生み出せるようになるという最終ゴールを考えると、まだ3合目くらいですね。
部内のメンバーは一丸となって動けるようになりましたが、社員516人(2019年9月末時点)全員となると、日常的に使うのは統計ツールではなくExcelですし、これまでの慣習や文化もあります。テクノロジー面と同時に、モチベーションの部分もよく加味して一歩ずつ進めていきたいです。
トライ&エラーを重ね一緒に成果を出していく
――前段で、CXもルゾンカさんの統括とうかがいました。CXは各社で定義もまちまちですし、特に金融業界でCXを重視してサービスを構築するのは難しいのではと思います。どう折り合いをつけているのですか?
ご指摘のように、いろいろな制約がある金融でのCX重視は一筋縄ではいかないのですが、開業時より現場では常に「そうしたらお客様はやりにくいのでは?」という会話が交わされ、ワーディングや画面の作り込みなどがすべて内製化されていました。
2001年当時、法人向けの銀行がほとんどの中で、個人向けの銀行として開業したこと、また前述のようにソニー自体の精神もあって、顧客一人ひとりを大切に、自分たちの手でサービスを提供する姿勢が全社員に根付いているんですね。それは当社で長く培われたもので、私が外からきて感動したことです。今も引き続きコンテンツ企画部がお客様の目に触れる部分すべてを最終的に確認しており、“最後の砦”の役割を果たしています。CXについては引き続きこの精神と内製化の効率性やスピード感を大事にしていきます。
――最後に、今後の展望をうかがえますか?

直近では、様々な粒度で簡単にデータを可視化できるようにはなったので、これをリアルタイムでできるよう整備中です。経営陣にデータドリブンマーケティングの理解があるといっても、最終的にはそれで事業成果を上げることが目標ですし、私もその数字を背負っているので、マーケティングを高度化して数字を達成する道筋を立てています。同時に、たとえば皆がツールを進んで使うようになるにはどうすべきか、どんなメリットを提示すればいいかなど、現場とも常に話し合っています。
大きな展望としては、一人ひとり異なる顧客に対して、パーソナライズされたサービスと商品展開を目指しています。ネット上の行動分析と、グループインタビューなどの定性調査の両輪で、「自分のことをわかってくれているな」と思ってもらえる銀行になりたいですね。無機質な付き合いではなく、お客様の夢や目標を叶えることをお手伝いする存在でありたいです。