意識しているのは、コンテンツの“消費期限”
――2019年も、Instagramでは様々なトレンドが生まれ、利用者行動にも変化が見られました。齊藤さんはどのような印象をお持ちですか。
齊藤:私はInstagramを使った企業のリブランディングを得意としているのですが(アカウント:@rena62sを参照)、最近のトレンドの移り変わりはとても早いと感じています。
今強く意識しているのは、人々がコンテンツを消費するスピードが速くなっていることです。若い人たちのスマートフォンの使い方を見ていると、ものすごい速さで画面をスクロールしていますよね。コンテンツ一つひとつの消費期限が短くなっていると思います。
齊藤:しかしそうした傾向があっても、Instagramは他のSNSと比べて、コンテンツを“溜める”ことができるメディアだと思います。フィードに流れてきた投稿をきっかけにアカウントへアクセスしたとき、過去の投稿分もチェックしてくれるユーザーも多いですよね。消費期限の長い、何度も見たくなるような魅力的なコンテンツが用意されていれば、アカウントのフォローはもちろん、来店や購買といった行動にもつながりやすくなるはずです。
“イケてる松屋”の裏側には、どんな戦略が?
――2019年に話題となった企業アカウントの一つに、牛めしの松屋フーズ(以下、松屋)さんの公式Instagram(@matsuya_foods)がありました。齊藤さんが運用支援をされているとのことですが、目的や戦略について聞かせていただけますか。
齊藤:松屋さんのアカウントは2019年の1月末に公開し、現在フォロワーが8,000人を超えました。
女性やインバウンドのお客様にもご来店いただくことが運用の目的でしたので、Instagramのメインユーザーである10代から30代後半の女性にターゲットを絞り、多くを語らなくてもインパクトがある画像、消費期限の長い画像でコミュニケーションをとるようにしてきました。
松屋さんのファンはもちろん、普段行くことが少ない人でもお店のイメージを持っていると思いますが、それをあえて外しにいくような「松屋らしくない」「イケてる」クリエイティブを発信することで、リブランディングにつなげようと考えたのです。
――ターゲット層に人気のあるインフルエンサーを起用したり、オンライン上で流行しているモノ・話題をインスパイアしたりといった投稿が、注目されていましたよね。
齊藤:でも、はじめはなかなか思うようにいかなかったんです。インフルエンサーたちに協力してほしいと相談したのですが、誰に声をかけても断られてしまって。「そもそも行かないので……」という人もいましたし、「松屋は好きだけど、自分のブランディングと違うので、ごめんなさい」という声もありました。
――少しさみしい反応ですが、まさにそれが、Instagramを通じて訴求したいターゲット層が抱いていたリアルなイメージだったのですね。
齊藤:はい。しかしこのアカウントが話題になった今は、インフルエンサー側から「松屋イケてるね」「松屋のInstagramに出たい」と声がかかるようになりました。これをきっかけに、世の中全体のイメージを変えていけると考えています。
Instagramを使ったコミュニケーションのポイントは、情報流通のピラミッド構造です。トップに位置するのがスーパーインフルエンサーと呼ばれる人たち。中間層にはインフルエンサーに憧れるファンたちが続き、マスへと広がっていきます。
スーパーインフルエンサーの人たちに「イケてるね」と感じてもらうことで、そのイメージはファン層に下りていき、さらに多くの人たちに伝わっていく。企業のアカウント活用に関しては、インフルエンサーを発信源とするだけではなく、投稿のおもしろさによってインフルエンサーを動かし、認知を広げていくという戦略です。
画像のトーンはそろえる?そろえない?
――個々のコンテンツ制作に関しては、どのような工夫をされているのでしょうか。
齊藤:若年層は特にInstagram上ではビジュアルを中心に見ていて、長いテキストを読むことはないのではと思っています。松屋さんを例にしますと、投稿文は1、2行で簡潔にまとめることを心がけています。
画像は、人物や物撮りの写真、イラストなど様々な種類を用意しています。これまでInstagramのセオリーとして、ホーム画面のファーストビューに入る3枚×3枚の画像は、トーンをそろえることが良いとされていましたよね。でも松屋のアカウントでは、すべて異なるトーンのほうが効くと考えました。若い人たちがスマートフォンを見るスピードはものすごく速いため、似たような画像ばかりだと、スクロールする指を止めてフォローするまで動かすことはできないからです。
――意外性がないと思われてしまうと、若年の利用者は見るのをやめてしまうということでしょうか。
齊藤:商材にもよりますが、その傾向はあります。結婚式場のサービスを展開しているアカウントで、結婚に関心ある人に届けたい場合は、提供するサービスの世界観が伝わるキラキラな画像が並んでいたほうが効く場合もあります。一方で、今回のようにそもそも関心の低い層にブランド認知を広げるには、「なんだろう?」と思わせて、過去のコンテンツも見に来てもらう仕掛けも必要なんです。
ですから松屋さんの投稿では、画像の1枚1枚にインパクトを持たせて勝負しています。ほかには、若年女性が好みそうなおしゃれな写真やイラストに商品や店舗の画像を紛れ込ませることで、「おもしろい」「もっと見てみたい」と感じてもらうことを狙っています。
親しみやすさ×レベルの高さを両立させる
――2019年はストーリーズも盛り上がり、多くの企業が活用している様子も見られました。
齊藤:私が運用支援をしているどのアカウントでも、ストーリーズ活用は推進しています。全般的に、ストーリーズは作り込んだ動画よりも、カジュアルであまり手の込んでいない投稿が好まれる印象はありますね。ただ、企業アカウントが作り込みを単純にやめるべきかというと、少し違うのではないかと思っています。
InstagramをはじめとしたSNSでは、企業も一般の人のアカウントも同じ位置にいます。一般の人の投稿内容になじみすぎてしまわないよう、ちょっとマネできない質でコンテンツ提供することの重要性は変わっていないのです。そういった意味で、コンテンツ制作においてInstagramの特性をよく理解しているクリエイターの力を借りることも有効です。
松屋さんの投稿では、ファッション業界のインフルエンサーやプロの写真家などを起用しながら、親しみがあるコンテンツなのに、真剣に作っていてレベルが高いといったアンバランスさが注目を集めたポイントだと思っています。
行動を促すキャンペーン&投稿の極意
――ショッピング機能に代表されるように、行動につなげやすい機能も増えました。Instagramから「買う」「出かける」などのアクションを起こすには、どのような仕掛けが必要でしょうか。
齊藤:少し前の事例になりますが、小売業界のクライアントさんのキャンペーンで、インスタ映えする写真撮影や加工術が得意なインフルエンサーたちをアサインし、商品紹介も兼ねて利用シーンの撮影をしてもらい、Instagramで発信しました。その写真と撮影ハウツーをまとめた冊子も作成し、店舗で配布したのですが、数日で5,000部がすべてなくなりました。「Instagramでステキな写真を撮影したい」というニーズが、特に数年前は盛り上がっていたので、人気を集めたのでしょう。
――ニーズを捉えて満たすことで、顧客との接点が生まれ、リアルで行動を起こしてもらうことにもつながったのですね。
齊藤:Instagramアカウントから店舗に誘導するようなキャンペーン企画も今後増えるでしょうし、オフラインとオンラインチャネルの回遊による行動の喚起は、可能性を感じています。松屋さんでは、店舗の券売機のデジタルディスプレイにInstagramの画面を掲載したり、他のSNSと連動させた企画で既存ファンにも、Instagramアカウントを話題にしてもらったりしています。
2020年、攻略したいのは「ARエフェクト」
――Instagramには、2020年も引き続き注目が集まることと思います。マーケティング活用のポイントを、改めて教えていただけますか。
齊藤:まずは、Instagramというプラットフォームを深く理解することが大事です。私は海外のアカウントを中心にチェックしていますが、利用者が求めているものを知るためには、自分がしっかりと使い込まなければと思っています。
また基本的なことですが、ハンドルの設計には気を遣うべきです。Instagramの検索機能の利用はますます伸びると思います。アカウント名を会社名にしてしまっているケースが少なくないのですが、SEOと同じで、検索したときに上位に出てこなければ見つけてもらえない。ブランド名にパワーや認知度があるのであれば、それをハンドル名にしたほうが強いです。
そして、やはり1番重要なのはコンテンツ。広告やQRコードなどを通じてアカウントへの動線を作る前に、達成したい目標のために「どんなコンテンツを届けるべきなのか」ということを一番に考えるべきです。
――最後に、2020年、齊藤さんがInstagramで盛り上がると予想しているトレンドを教えてください。
齊藤:InstagramのARエフェクトにはとても期待していて、既に自分で作ってみたりしています。クリエイターがARカメラエフェクトを作成し、Instagramストーリーズ上で公開できる「Spark AR」が提供されたことで、海外では既に波が来ていますし、日本でも流行るのではないかと思います。
齊藤:2020年は、ストーリーズのフェイスフィルターなど、ARを使った企画を考えてみたいですね。スターバックスさんがいち早く取り入れられていましたが、企業アカウントにとってもエンゲージメントをあげたり、UGCを生んだりというきっかけになるはずです。
――本日はありがとうございました。
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