SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

新着記事一覧を見る

MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

直近開催のイベントはこちら!

MarkeZine Day 2025 Retail

マーケティングを経営ごとに 識者のInsight

「食×デジタル」の可能性を追求 マーケティングと接客をつなぐDX推進

「人に喜ばれてこそ」 デジタル化も社是が根底に

――CDOとの兼務として社長室や広報の役職も務めておられます。CDOとしてデジタル化をリードされる他に、どういった業務を進められているのですか?

 デジタルはあくまで手段であって、目的ではありません。たとえば全社の従業員でデジタルを活用するなら、その意義や方法を明るくわかりやすく伝える広報との連携が不可欠です。また、社長室はトップの経営方針や社是の精神を各部門へ伝える役目を担います。デジタルの力も借りて、経営のテーマと個別課題に照らしたアクションを連携推進していくことも、私の仕事です。

――DXといっても、目指す方向性は企業によって様々です。どのようなミッションをもって入られたのですか?

 私より以前にはCDOの役職がなかったこともあって、参画時にはご質問のような点を面接の過程でもディスカッションしました。

 やるべきは「多様性を意識した柔軟なデジタル基盤の創造」ですが、元々当社は戦後まもない1947年、学生たちにお腹いっぱい食べてほしいと創業者が学食での食事提供の仕事を引き受けたことがスタートで、社是に「人に喜ばれてこそ会社は発展する」と掲げています。店舗スタッフには60代を超える方や外国人の方もいますし、レストランやデリカ、社食や学食、ヘルスケアやホテルのお客様はそれこそ非常に幅広いです。ですからDXの施策もすべて、そうした人々も含めて「たくさんの人に喜んでいただけるものにしよう」と社内で合意しました。

店頭にAIカメラを設置 “笑顔”を数値化する

――では、これまでの2年間の方針と施策をうかがえますか?

 前述のミッションに即したビジョンとして、主に次の2つの柱を立てました。

 1つは、お客様により一層集中できる時間を生み出すことです。店舗でのデジタル活用というと、とかく業務効率化や作業負荷低減に焦点が当たりがちですが、そこが最終ゴールではないので、お客様への価値の還元に使う時間を最大化することを第一の柱としました。

 もう1つは、お客様の理解です。飲食業にはQSC(クオリティ・サービス・クレンリネス)という基本的な評価基準がありますが、これに当社ではお客様への付加価値、V(バリュー)を加えて“QSC+V”の維持向上を目指しています。お客様をより理解すれば、求められている付加価値も深く知ることができます。デジタルを通じたQSC+Vを底上げする体制の構築が、第二の柱です。

 具体的な施策は、お客様の理解に関連した例では「AIカメラの活用」があります。サービス向上の趣旨を店頭で掲示した上で、「とんかつ新宿さぼてん」の関東近郊の約20店舗にAIカメラを設置し、来店のお客様の性別や年齢、新規かリピーターかを判別してデータを取得しました。人に喜ばれることが社是ですから、表情から感情も測定し、笑顔の数値化にも取り組みました。

――笑顔の数値化ですか、興味深いです。

 延べ100万人の笑顔分析を通じて、いろいろな学びがありました。たとえば、お客様の笑顔指数のグラフが明らかに上がる日や時間帯があったので、パターンから予測して該当の日時に店頭を訪れると、“神対応”のスタッフがいたんですね。通常、お惣菜の販売はショーケースの内側から対応しますが、そのスタッフは外に出てお客様に寄り添い、「今日のお夕飯は何にされますか?」など話しながら接客していました。

 もちろんケースバイケースですが、その店ではこうした対応によってお客様の笑顔指数がぐっと上がり、結果的に客数や売上も付いてきていました。人に喜ばれると本当に会社は発展するのだと、私自身も実感しましたし、経営会議でも同様の例を繰り返し紹介して理解を促しています。

一方的な展開ではなく店内にエバンジェリストが必要

――スタッフの方向けの施策も進んでいるのですか?

 はい。たとえば、同じ笑顔の数値化の仕組みを使って、“AI笑顔確認アプリ”を各店舗に配布したiPadに導入し、測定を促しています。シフトに入る前、身だしなみの確認とともに、iPadのカメラに向かって「いらっしゃいませ」と最高の笑顔で語りかけて、ボタンを押すと撮影され、瞬時にクラウドにつながって「87点!」とか「90点!」とかAIが返してくれるんですね。高齢の方でも毎日活用しています。

 この数値は本部で集約して、業態ごとや店舗ごとにランキング化したり、定期的に店舗の仲間とも共有したりしています。このアプリのUIしかり、共有の仕組みしかり、やはり“楽しさ”は大事ですね。簡単に楽しくできることで習慣化し、自分たちの笑顔がお客様の笑顔も引き出すのだと体感することで、基本動作の底上げだけでなく、モチベーションの維持向上につながると思います。

――特に店舗が多い業態だと、デジタルが店舗に寄与する実感が持てない、自分たちに関係があるのかわからないといった課題があると聞きます。御社のような仕組みだと、積極的な参加が維持され、お客様にも反映し、と好循環ができているのですね。

 そうですね、現状ではそのような手応えを得ています。ただ、最初の数ヵ月には試行錯誤もあって、1つ学んだこととして大きいのは「店内にエバンジェリストが必要だ」という点ですね。本社の役員や広報が活用を促すだけでは店舗の行動は変わりません。このデジタルの仕組みを楽しんで使い、周りに広げてくれる人を店内で育成することが大事だと思っています。

 たとえば、スタッフ研修用の動画は店舗配布のiPadやスマホでも閲覧できますが、その中には「ベテランスタッフにAI笑顔確認アプリの感想を聞く」インタビューもあります。店のことやお客様のことをよくわかっている高齢のベテランスタッフに、まずこの仕組みに慣れて好感触を持っていただき、その率直な感想を広報担当が収録しました。実際に触る様子を見ると、アプリの簡単さなどもわかるので、他店への浸透にも役立っています。

次のページ
現場へのデジタル浸透は“入り口”が大事

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
  • Pocket
  • note
関連リンク
マーケティングを経営ごとに 識者のInsight連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

高島 知子(タカシマ トモコ)

 フリー編集者・ライター。主にビジネス系で活動(仕事をWEBにまとめています、詳細はこちらから)。関心領域は企業のコミュニケーション活動、個人の働き方など。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

安成 蓉子(編集部)(ヤスナリ ヨウコ)

MarkeZine編集部 編集長
1985年山口県生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。専門商社で営業を経験し、2012年株式会社翔泳社に入社。マーケティング専門メディア『MarkeZine』の編集・企画・運営に携わる。2016年、雑誌『MarkeZine』を創刊し、サブスクリプション事業を開始。編集業務と並行して、デジタル時代に適した出版社・ウェブメディアの新ビジネスモデル構築に取り組んでいる。2019年4月、編集長就任。プライベートでは2児の母。

★編集...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

MarkeZine(マーケジン)
2020/04/24 19:23 https://markezine.jp/article/detail/33188

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

イベント

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング