DXの実現にも、テックとUXの掛け合わせが不可欠
MZ:冒頭でも「UX×テックの社会実装」「UX型DX」というキーワードがありましたが、今お話しいただいたアフターデジタルの誤解を解きながら、これらを実現するのが今回のイベントの主旨なのですよね。それぞれ、どういったことを意図しているのかうかがえますか?
藤井:まず、UXとテックは非常に密接で、この2つが掛け合わさることで人の可能性が広がっていくと考えています。
一昔前は、UXの概念はオンライン上に限られていて、オフラインのビジネス上でUXという言葉は使われていませんでした。オンラインとオフラインが次第に融合していくにつれて、企業がオンとオフをまたいでカスタマージャーニーを構築し、人がそこに乗ることで自然と自己実現ができるような例が増えてきました。いつも3日坊主だったダイエットが、あるサービスに参加すると無理なくできた、といったことですね。
MZ:なるほど。企業がテクノロジーを使って優れたUXを提供することで、人々が自己実現できたり、より幸せな状態になったりする、と。
藤井:そうです。「Pokémon GO」によって高齢者がよく歩くようになり健康が増進した、という話も有名ですね。オフラインの行動も含めて、人々が自然と良い行動を取れる環境づくりを設計することが、UX×テックで可能になり、ここには大きな可能性があります。そして、ユーザーファーストの考えでテックによってUXを充実させ、ユーザーが集まり、結果として自社がDXして発展していくことを「UX型DX」と称しています。
ですが日本では今、UXにほとんど焦点が当てられていない。皆、テックには少し過剰なほど期待していて、それこそデータでビジネスを推進しようとか、エンジニアやデータサイエンティストを積極的に採用しようとしているのに、人の体験設計の専門家であるUXデザイナーを募集する企業はまだ少数です。
MZ:日本でもDXが急務とされていますが、ユーザーインサイトやUXのアプローチが置き去りになっているケースも少なくないのでは、と感じます。
藤井:同感です。UX型のDXが当たり前になるように、まずは概念の理解と普及を進めたい。そしてもう一つ、UXというのは悪意をもって設計すると、人の行動をコントロールすることもできてしまいます。良いほうにも悪いほうにも転がるから、倫理観がとても大切なのです。これも、「L&UX2021」を通じて発信したいメッセージです。
現場視点と、上流のゲームチェンジを知る視点で学ぶ
MZ:では、「L&UX2021」の中で、MarkeZine読者に特におすすめのセッションを教えていただけますか?
藤井:各セッションは、すぐにビジネスに活かせること、より上流のゲームチェンジがどうつくられるのかを知ること、という2つの視点のいずれかを盛り込んでいます。
前者の視点でおすすめしたいのは、次の2つです。
(1)体験価値のマネジメント-プラットフォームにおける包括的な体験管理
陳妍氏(Tencent)/深津 貴之氏(THE GUILD/note)/藤井 保文氏(ビービット)
5/17(月)18:30配信開始
(2)人と社会を支えるイノベーションイネーブラー
Abhinit Tiwari氏(Go-Jek)/塚原 文奈氏(hey)/ 藤井 保文氏(ビービット)
5/24(月)18:00配信開始
(1)はテンセントUX責任者の陳妍(エンヤ チェン)さんと、THE GUILD代表で、noteのCXOでもある深津さんの対談です。先日収録を行ったのですが、深津さんのUXの考え方や、その視点で「テンセントの10億人規模ではどうなるのか」と質問されたりして、規模やサービスの性質による相違点や本質が見えてくるセッションでした。
(2)はインドネシアからGo-Jekプロダクト責任者のAbhinit Tiwariさんと、hey取締役CPOで「STORES」を前身の時代から手掛けられる塚原文奈さんがゲストです。成長するサービスのフェーズと組織の在り方、価値をぶらさずにどうグロースするか、といった議論を展開いただきました。