コロナ禍で増えつつある、突発的な消費の形
MarkeZine編集部(以下、MZ):今、生活者の価値観が大きく変わる節目を迎えています。今回は二次流通市場をけん引するメルカリから、マーケティングマネージャーの星さんをお迎えし、生活者の変化をどう捉え、アプローチしているかをお聞きします。まず、メルカリのマーケティングで推進している業務について教えてください。
メルカリ 星賢志氏(以下、星):認知や利用促進に向けたコミュニケーション戦略の設計からKPI管理まで、全体を見ています。テレビCMやSNSの活用、オフラインの施策なども範疇です。たとえばテレビ局と連携し、メルカリのオリジナルドラマを通して共感を醸成するような施策も手掛けています。当社では部門間の連携が柔軟なので、マーケティングのチームが各部署と横断的にやり取りしながら業務を進めています。
MZ:昨今の生活者の変化を、どう捉えていますか?
星:やはりコロナ禍の影響を受けたこの1~2年で、大きくマインドが変わったと思います。在宅時間が続き、「偶発性」や「セレンディピティ」を求める生活者は多いと思いますし、消費においての選択肢も多様化していると感じます。
リユース品が、新しいライフスタイルの検討材料に
MZ:では、メルカリは今どのようにユーザーに利用されているのでしょうか? その中でコロナ禍の影響による変化があれば、合わせて教えてください。
星:大きく3つご紹介できればと思います。1つは、トライアル利用としての購入です。たとえば、化粧品を購入する前に、自分に合うか色味を試してみたい時や、新しい趣味を始める際などに見られる利用目的ですね。
コロナ禍の影響でキャンプに注目が集まっていますが、いきなりツールを一式揃えるのは、ビギナーにとって負担です。そうした場合に、レンタルという選択肢に加えて、比較的安価なリユース品で試すという傾向が出てきています。
MZ:なるほど、それで自分のライフスタイルに合えば、改めて一式揃えよう、と。
星:そうですね。メルカリがその人にとっての新しいチャレンジや、自己実現にも貢献していると捉えています。また、トライアルが一次流通における購入機会となり、一次流通市場の潜在顧客層を掘り起こすことにもつながっていると考えています。
次に、使用シーンが限定的なものの売買です。たとえば結婚式で使ったものを、次に必要となる人につなげていく意味での出品は、無駄な廃棄を減らすだけでなく情緒的な価値の循環にもなり得ますよね。こうした利用は、昨今のシェアリングエコノミーの理解と浸透によっても、一層後押しされている印象です。
最後は「売ること」が選択肢になる購入の広がりです。1つ目と重なりますが、「メルカリで売る」という選択肢によって、新しいチャレンジや一次流通市場で新品を購入する際の心理的なハードルが下がっているように思います。もしうまくいかなくても、続かなくても、「メルカリで売れる」ということが、あらゆる挑戦のハードルを下げることにもつながっていくと思います。そのことが、よりポジティブな経済活動につながっていくと捉えています。
一次流通と二次流通の市場をまたいで価値が循環する
MZ:確かに、メルカリをはじめとする二次流通のマーケットプレイスの拡大で、シチュエーションによっては「新品でなくてもいい」という価値観は広がっているように感じます。それを事業者側の視点で見ると、もの自体とそれが持つ価値の循環が二次流通市場の中で完結しているのではなく、一次流通市場も含めて巡りながら消費を活性化している状況があるのですね。
星:そうですね。二次流通の存在によって選択肢が広がり、結局は一次流通市場を含め経済活動が活性化すると考えています。
MZ:おうち時間の増加などにより、中高年層のユーザーも増えつつあるかと思います。属性・目的いずれの点においてもターゲットが多彩となる中で、ユーザーに対してはどういったことを大事にされているのですか?
星:シンプルですが、「思いやり」を大事にしています。多様な生活者のそれぞれのインサイトに寄り添った仕組みやコミュニケーションができているか、常に意識しています。そのため、短期的な事業KPIだけでなく、中長期的な意識指標もKPIとして重要視し、それぞれの相関や結節すべきポイントを探っています。
お客さまが「心地よい」と感じる距離感を測る
MZ:中長期的なKPIの視点は、サステナビリティを意識した取り組みにおいても重要になりそうですね。サステナブルの切り口で、ユーザー向けにも様々な企画を展開されていますよね。最近の取り組みをいくつか紹介いただけますか?
星:2020年11月、持続可能な消費を促進する「グリーンフライデー」を切り口に、メルカリで扱うリユースのアパレルアイテムを使った「サステナブルファッションショー」を実施しました。
星:また年末年始にかけては、ブックオフさん、家事代行の「カジタク」さんと組んで「『捨てない』大掃除」を実施しました。片付けのプロと一緒に家を片付けて、不要品を出品や買い取りに出していただく施策です。
MZ:こうした切り口の企画は、自分が「もう要らない」と思ったものにも価値を見出すきっかけになりますね。
星:まさに、そうなってもらえればと。お客さまにはメルカリをうまく使っていただいていますが、「サステナブルなことをしている」「循環型社会に貢献したい」と意識して活用されている方は、現状では少ないと思います。なので、皆様の気持ちにないことを我々が一方的に訴えても、それは共感を得られません。
当社は企業として「循環型社会」の実現を目指し、そのための取り組みを推進していますが、個々のお客さまに押し付けるのは違うだろう、と。あくまでお客さまの視点で、その気持ちの中にあることとメルカリの姿勢との共通項を探って、適切な距離感で共感を得られるアプローチを構築していく考えです。
眠っていた価値を発掘することで生まれる可能性
MZ:なるほど。そうした姿勢も、先ほどおっしゃった「思いやり」ですね。そうして徐々に、「これって実はサステナブルなんだ」と気づく人が増えていく。
星:メルカリの利用が、最も簡単なサステナビリティへの近道になればいいですね。お客さまの視点に立って考えたアプローチの例を挙げると、ご家庭に眠っている「かくれ資産」の発掘を切り口にしたプロモーションがあります。
骨董品が積み上がっている“蔵”を持つご家庭は少ないかもしれませんが、日本では1世帯につき約70万円分のかくれ資産が眠っていると言われています。
星:まだ価値があるから捨てられないけど、自分では使わないものが「使いたい」と思う人に渡り、改めて使われるようになる――ものにとっても、製造元にとってもポジティブなアクションですし、価値がつながることで売る側にとっての便益も大きくなりますよね。
MZ:それこそまさに「循環型社会」と言えますね。最近は若年層を中心に、サステナビリティを重視する企業を意識的に支持する傾向が現れてきていると思います。御社ではそうした潮流も捉えられているのですか?
星:おっしゃるように、各種調査結果からも若年層を中心にサステナビリティへの感度は高まっていることがわかるので、若年層の方々のインサイトを捉える重要性も増していくと思います。弊社の取り組みとしては、今年4月の「アースデー」ではSHIBUYA109さんと共に「Z世代と企業のサステナ提案」と題したワークショップを実施しました。
こうした施策は単発での評価が難しいですが、実施した満足感で終わってしまってはいけないので、社内の協力を得るためにも、意識指標のリフトをKPI化していくなど、客観性が担保された指針を持つよう意識しています。
様々な視点を「主語」にして考える
MZ:サステナビリティの視点を事業に取り込もうとしている企業は増えていますが、今のKPIのお話は大事なポイントだと思いました。既に複数の取り組みを進められている立場から、サステナビリティを重視することとビジネスとの結節について、他にどういった考え方が大事だと思われますか?
星:「自分にとっては不要なものが誰かにとっては価値になる」という価値の循環の意味で、そもそもメルカリの事業そのものがサステナブルであると捉えています。その上で、「いろいろな視点を主語にする」ことを重視しています。
私なら日常で「マーケター」としての考え方や判断軸を持っていますが、「生活者」として企業がどのようにサステナビリティに取り組んでくれたらうれしいか、自分ごと化し共感できるかというフラットな見方も意識しています。他部署の視点から見たらどうか、異業種の方々からはどうか、と多角的な主語で考えていくことも重要だと思います。
MZ:いろいろな視点を主語に、というのは良い言葉ですね。最後に、循環型社会の実現に向けた展望をうかがえますか?
星:生活者の価値観はますます多様化し、消費のスタイルもさらに広がるはずです。その中で、「こういう場合は新品がいい」「この場合はリユース品でいいかも」と使い分ける人が増えてくると思います。今後も生活者のシチュエーションごとに、選択肢としてメルカリが想起されるようなコミュニケーションを発信していきたいです。その取り組みが、結果的に価値の連鎖を作って循環型社会への貢献にもつながり、新しい経済活動の活性化にもつながっていくと考えています。
世の中に変化を起こそうとするときは、予想が付くことばかりではないと思いますが、覚悟を持ってやりきることが大事だと思います。フリマアプリのリーディングカンパニーとしての覚悟を持って、循環型社会の実現を目指していきます。