1億会員を超える「Ponta」データのマーケティング活用
セッション冒頭、小河氏は今回のMarkeZine Day全体のテーマ「ニューノーマル時代の勝ち筋を探る」に触れ、以下のように述べる。
「消費者の意識や行動がより一層オンラインとオフラインでシームレス化していること、加えて法改正やプラットフォーマーの変化に対応しながら、私たちはデータ活用をさらに高度化していく必要があると考えています。本セッションでは、ニューノーマル時代の変化に対応するうえでの『解』の1つとして、Pontaが持つデータを活用したマーケティング手法について紹介したいと思います」(小河氏)
Ponta(ポンタ)は全国25万店舗以上の提携店やネットサービスの利用金額に応じて「ためる」「つかう」ことができる共通ポイントサービス。ロイヤリティマーケティングは、Pontaのサービス運営と、会員データやコンタクトポイントを活用したマーケティングサービスを提供している。生活の様々なシーンで活用できる利便性が功を奏し、2010年のサービス開始から国内屈指の会員数にまで成長。現在では1億人超のユーザーを獲得するに至っている。
「日常の購買活動から得られる1億ID超のデータが、『Ponta DMP(データマネジメントプラットフォーム)』に貯まっています。私たちのマーケティングサービスの強みは、この大量のデータを分析し、プランニング、ターゲティング、アプローチ、そしてリアル店舗を含めた購買測定まで、マーケティングのPDCAサイクルを1つのID、1つのDMP内でシームレスに実現できることです」(小河氏)
オンライン広告における「オフラインデータ」の必要性
続いて小河氏は、オンライン広告における「オフラインデータ」の必要性について、調査データを用いながら解説していく。
そもそもデジタル広告におけるオンライン&オフラインの理想形とは、どのようなものだろうか。オフラインでの購買が目的に含まれるプロモーションならば、オンラインデータだけではなく、オフラインデータもシームレスに活用したいと企業が思うのは当然の流れだ。
しかし現実には、オンライン広告はオンラインデータのみを使ってターゲティングし、その成果もオンライン上の表示単価やクリック率で計測するという、オンラインに閉じた施策となってしまうケースが珍しくない。
では、このようにオンライン・オフラインの分断が起きてしまうと、どのような問題があるのだろうか。ロイヤリティ マーケティング社はこの問いに答えるため、「ターゲティング」と「効果測定」という2つの側面に対して調査を実施した。
調査1:オンラインデータのみで、精度の高いターゲティングはできるのか?
同社はまず、Pontaの会員登録情報を正とし、ID突合によって大手DSP事業者の属性データ(性別、年代)の正解率を算出。その結果、性別は約80%と高い正解率であった一方、年代の正答率は40、50代以外では高くて30%台、特に若年層の正解率が非常に低いという結果になった。
「この結果から、オンラインデータを使ったターゲティングは得手・不得手があるのではないかと私たちは考えました。消費者にとって一定以上の費用がかかり、ネット上で比較検討を行うジャンル、たとえば旅行、不動産、金融では、オンラインデータによるターゲティングの親和性が高いと言えます。一方で、日用品、飲料・食品といった日常的な購買活動は、オンライン上の閲覧行動だけでは絞り込みにくい商材であり、年齢の推定も含めてオンラインデータのターゲティング向きではないと言えそうです」(小河氏)
調査2:オンライン広告の効果指標で、オフライン購買の実態は追えるのか?
続いて同社は、FacebookとInstagram上のオンライン広告への反応と、オフラインの購買データをIDベースでつなげ、双方の相関について調査を実施した。簡単に言うと、広告を見て「いいね」をしたり、クリックしたり、広告動画を最後まで再生する人の割合が高いほうが、実際にオフラインでも買ってくれる割合が高いのかどうかを調べるというものだ。
結果をまとめたものが、下図となる。たとえば左上のグラフは広告動画の再生率とオフラインでの購買率をプロットしたもので、1つの点が1つの案件を指している。動画再生率と購買率は「相関が見られない」と出ているが、これはつまり、オンライン上で広告動画を最後まで見てくれる率が高い/低いという数値と、オフラインでの実購買率との間に相関が見られないということだ。
「上記の5つのグラフを分析した結論として、オンラインの広告効果指標とオフライン購買効果には、正の相関が見られませんでした。もちろん、認知向上を計測するためにオンラインの広告反応を計測することが重要なケースもあります。しかし、広告で接触したユーザーが購買に直結したかどうかまでは、実際の購買データを見ないと把握できないということです。以上2つの調査結果から、オフラインの購買を目的にしたプロモーションには、オフラインデータも活用すべきだと、我々は結論付けました」(小河氏)
オフラインデータ活用における4つの障壁
オフラインの購買が目的に含まれるプロモーションにおいてはオフラインデータの活用も重要ということがわかったが、実際にオフラインデータを活用する際には様々なハードルが発生する。小河氏によると、主な障壁は4つある。
オフラインデータ活用を阻む4つの壁
1、ガバナンス(個人情報の法令遵守、レピュテーションリスクなど)
2、データソースのボリューム
3、データソースとメディアを接続するパイプの太さ
4、データソースとメディアの接続技術と実現内容
ロイヤリティ マーケティングでは、それぞれについて次のように対応している。
1、ガバナンス
小河氏:メディア、法律、プラットフォーマーのルールは年々厳しさを増しており、これに対応していくためには、ユーザー、企業、社会の3つの観点が必要です。まずユーザー観点では、ポイントサービスを受けるために許容していただいたデータ活用の詳細をWebサイトでご紹介することで、その透明性を保っています。
企業観点では、データを授受するパートナー企業様のユーザーによるパーミッション(許諾)、法令の遵守、セキュリティやガバナンス、そして契約内容を念入りに事前確認するスキームを構築しています。
最後は社会の観点。弊社ではCookieやIDFA自体も、Pontaの会員契約で同意を得た個人情報として扱っており、個人情報保護法の改正も先取りしております。
2、データソースのボリューム
小河氏:広告と連携するためにはファクトデータのボリュームが非常に重要で、国内でも多くのケースでボリュームがネックになっています。弊社のサービスではその特性上、他業種からデータを取得しています。いつ、どの店舗で、何円分の購買をしたか、さらには一部の提携店舗様ではID-POSデータによって何を買ったかまで特定できるのです。また、メディアとの連携キーもすべてPonta IDに紐づく1つのIDで構成されている点も重要になります。
3、データソースとメディアを接続するパイプの太さ
小河氏:オフラインデータとメディアを突合する際、せっかくオフラインデータ量が多くても最終的にターゲティング広告の対象者が小さくなってしまう、というケースがよく見受けられます。弊社の場合、CookieやIDFAにほとんど依存せず、「Ponta ID」をキーとした各種の会員情報によって、各メディアとID突合を実施しています。
そのため、LINE4,000万、Facebook2,000万といった、かなりボリュームでデータを突合できているため、ターゲティング配信や購買分析を実施しても十分なデータ量を確保できているのです。
4、データソースとメディアの接続技術と実現内容
小河氏:特にメガプラットフォーマーでは、そのサービス内のインプレッションデータは外に出さないケースがほとんどです。そのため、いかにデータを突合し、何を実現できるのかが課題になります。
プラットフォーマーごとに実現内容や手段は様々ですが、多くのプラットフォーマーとターゲティング配信、および広告接触からの購買測定を実現できています。具体的には、プラットフォーマー内に分析専用環境を構築し、広告接触データと弊社の購買データを掛け合わせた分析を可能にしているのです。この分析専用環境は「データクリーンルーム」と呼ばれ、関係各社との調整を含め、時間をかけて開発してきました。
加えて、セキュリティやリーガルの問題をクリアしながら開発、運用をいかに軽くしてデータ連携をしていくかも大きなテーマです。生の個人情報ではなく、クラウドやトレジャーデータなどをハブとし、他社の環境と接続することでスピード感のある開発運用を実現しています。
購買データ活用でROASは10倍に⁉ 活用事例3選
「オフライン中心の膨大なファクトデータ」と「Pontaデータを接続できるメディア」を掛け合わせ、4つの障壁を乗り越えたことで実現したPontaのデータマーケティング。ではこの「Ponta DMP」を、企業はいかに活用して成果に繋げていくことができるのか。セッションの最後に小河氏からいくつかの事例が紹介された。
取組事例1:基本パターンのターゲティング&購買測定
小河氏:弊社が取得する小売事業者様のID-POSを使用し、その小売事業者様に商品をおろしているメーカー様を広告主とするケースです。広告配信セグメント別に、大きく3つの場合に分けられ、それぞれ成果が異なります。
自社商品の購入者をターゲティングとする場合、既存購買者の購買数をアップすることに寄与し、休眠顧客の復活を実現とすることも可能です。同一カテゴリー商品の購入者の場合、競合商品を購買している方、つまり顕在層の獲得に寄与します。そして、併売カテゴリー消費の購入者の場合、併売率が高い商品をターゲティングすることで購入可能性の高い潜在層を発掘することができます。
結果、購買データを活用したセグメントのROAS(広告費用対効果)はそれぞれの場合で3〜10倍に向上し、オフラインでの購買促進効果が得られました。
取組事例2:リアル購買→類似拡張のターゲティング&購買測定
小河氏:小売業者様をクライアントとし、小売業者様自身のID-POSを利用した例です。ターゲティングのセグメントは大きく2つ。1つは対象の小売店様の半径500メートル以内でPontaパートナー様を利用しており、かつ対象の小売店様の既存利用者を除外したセグメント。2つ目は、対象の小売店の既存利用者をFacebookで拡張し、既存利用者を除外するセグメントです。
いずれも配信料金と比べてROAS7倍以上の成果を出しており、また既存顧客を除外して配信したことで新規の顧客を獲得できた点に対しても高い評価をいただいたケースです。
取組事例③:複合データのターゲティング&効果測定
小河氏:金融系クライアント様の事例で、測定指標はCPA(獲得単価)です。ファクトデータをそのまま使うのではなく、複合的に活用することで推定までも含めています。アンケートや「Ponta」経済圏の消費活動、会員登録情報などから年収600万円以上と推定してFacebookで配信。複合的にデータを活用したことで配信精度が上がり、結果低コストで契約を獲得できました。
以上、3つの事例を紹介した。これらの事例から、オンライン×オフラインデータをかけ合わせた活用を実現することで、デジタル広告の精度が高まっていくことが見えてくる。
小河氏は、「オフラインの購買データや日常生活の消費データの活用、そしてメディアをつなぐマーケティングソリューションは、国内を見ても非常に貴重なサービスです。自社のマーケティング施策に課題を感じていたら、ぜひ一度検討してみてください」と述べ、セッションを締めた。