米PepsiCoのTropicana売却が示すこと
日本でも武田薬品が「アリナミン」を売却し、資生堂が「TSUBAKI」や「シーブリーズ」を売却する舵取りがあった。これらの売却は外出自粛や収益性の改善を理由にして語られることがあるが、それは表層部分に過ぎない。同様の判断として、2021年8月に米国PepsiCo社が世界の誰もが知る「Tropicana」を売却する発表をした。これは旧来のマスブランドを持つ事業主の典型的な「棚売り」の見切りの例であり、今持ち得る資産価値(B/S)を顕在化させて、個別の「D2Cブランド資産」へ向けるための矛先の変化だ。
今回PepsiCoの取った行動の背後にある「金融的なアレンジ」は以下だ。
- 年間売り上げ約3,300億円も稼ぐ、有名CPGブランドを未練なく売却し、
- 売却キャッシュの約3,600億円を元手に変換し、
- 次なるD2CブランドをM&Aしたり育てたりする再投資資金を準備した。
これぞ「D2C化」への「畑(B/S)の入れ替え」の一手である。当然、売り上げの減少や企業価値の低下などの痛みは伴う。
PepsiCoは発表で、より収益性の高い商品や健康的な食品、カロリーゼロ飲料の品ぞろえを拡充するなどとしている。「健康・ヘルシー」路線へのカテゴリー変更は、Tropicanaの巨大市場にとどまって事業を継続することに比べると、超ニッチな分野だ。Tropicanaの「全盛期」とは飲料の概念そのものが異次元になっていることは容易に想像できる。ここへ新たに進むならば、必然的にD2Cやデジタルネイティブが起点になる。
日本企業には、商品ブランド事業に対するB/Sの価値換算の概念が薄いが、この考え方は先述のD2C新ブランド作りに向けた視点の2つ目、3つ目として重要視したい。日本企業やブランドにも、それぞれの「生い立ちや歴史的経緯」は配慮する事項としてあろう。とはいえ、「言い訳無用」の状況であることは、武田薬品、資生堂、PepsiCoの事例が示してくれている。
直接的に消費者とつながるビジネスを構築するジャンプのために、一旦しゃがんだというのが、これらの企業が取った行動であり、決して、D2Cサイトの準備やデータの利活用の次元ではないのだ。
