標準化するための2つの考え方
有園:オープン化やプラットフォーム化の考え方は、書籍で語られた島田さんの考えに通じていますよね。オープンにせず、マネタイズを考える方向性も十分あると思うのですが。
島田:そうですね。たとえばGridDBだと、NoSQLデータの扱いが今後どれだけ増えるかは課題ですが、増えたときにもうGridDBを使うしかない、という状態に持ち込みたい狙いがあります。浸透させたいから、オープンソース化しました。
オープン化やプラットフォーム化の考えには大きく2種類、乗っかってもらうバージョンと、タダで配るバージョンがあると思います。たとえばAppleは、iPhoneで世界を席巻した上でAppStoreを立ち上げたから、全アプリプレーヤーが乗ってくれることになった。圧倒的なマーケットシェアがあるからできることです。
一方、GoogleはAndroid搭載のスマートフォンを格安で販売し、巻き返そうとしました。東芝テックが提供している電子レシートの「スマートレシート」は、圧倒的なPOSのマーケットシェアを使った前者の戦法ですし、GridDBは後者に近い。
有園:なるほど。おもしろいですね。
島田:オープンといえば、当社はオープンイノベーションにも積極的です。2020年から「Toshiba OPEN INNOVATION PROGRAM」を開始し、スタートアップを中心に様々な企業との共創に取り組んでいます(参照:プレスリリース)。
有園:スタートアップの買収や投資ではなく、共創なんですね。
島田:はい。むしろ、当社のビジネスアセットや先端技術をオープンにして、協業アイデアを提案していただくのです。前述のように、当社は儲けを第一義にしていないため、イノベーティブな技術やソリューションを生み出せても収益化に時間がかかることも多いので。
直近ではバイオベンチャーのRevorf社、アヘッド・バイオコンピューティング社とともに、量子コンピューターの研究から生まれた「量子インスパイアード最適化ソリューションSQBM+」を使い、創薬分野での量子技術の活用の可能性を共同で検証し、成果を上げています(参照:プレスリリース)。
スケールフリーネットワーク化する「スマートレシート」
有園:先ほど「スマートレシート」の話が上がりましたが、御社ではグループ会社の東芝テックが、様々な店舗で使われるPOSレジで国内トップシェアを誇っています。海外にも広がっていますよね?
島田:はい。現在国内だけでなく、海外でもトップシェアです。
有園:そこから得られるID-POSデータをもとに、購買情報を収集・分析できる電子レシートが「スマートレシート」ですね。今、ユーザーはどのくらいですか?
島田:120万人ほどで、MAUは40%以上です。すぐなくしてしまう紙のレシートの代わりに、自分の買い物をいつでもスマホで確認できるので、ほとんどの方が継続利用を希望されています。毎月8~10万人増えており、まだまだ伸びしろがあります。
有園:ご著書では、2018年に島田さんが東芝に入社して企業資産の豊富さや技術力の高さを目の当たりにし、これらをスケールフリーネットワーク化できないかと取り組んできた、とありました。そのひとつが「スマートレシート」だったと。
島田:そうですね。購買情報に関して見落としてはいけないのは、仮に自社が「顧客の購買情報をしっかり持っている」と思っていても、そのデータは個人単位で見ると購買行動のごく数%にすぎないことです。分析しても、大した示唆は得られません。
これを打破するには、個人の側に自分の購買情報を集めていただくしかありません。Facebookにしても、ユーザー自らが自分の情報を投稿していますよね。同じように、「スマートレシート」で「自分の購買データを管理できるのは便利だ」と感じていただければ、企業の垣根を超えた情報が集まります。
