「食べ放題」を「選び放題」に変換して差別化
郊外のロードサイドを中心に店舗を展開する焼肉きんぐ。メイン顧客は子連れのファミリーだ。大人と一緒に来る子供のほか、焼肉を食べたい人について来る健康志向の人など、幅広い層に向けた商品を用意している。

加えて、一皿800~1,000円の商品や、流行を取り入れた商品、辛い商品、ニンニクをたっぷり効かせた商品など「食べ放題だから試してみようと思える商品も不可欠」と霜山氏。裏名物の「四川麻婆豆腐」と「チーズ焼肉」はリピーターの多いメニューだ。
「食べ放題に対するお客様のイメージを『選び放題』に変えることができれば、競合他社と差別化ができると考えました」(霜山氏)
とは言え焼肉食べ放題チェーンはライバルが多い。焼肉きんぐならではの付加価値を提供生み出すために、霜山氏は「圧倒的な名物商品が必要」と考えた。そこで2018年に始まったのが「四大名物」だ。

定期的に更新を重ねながら提供し続けている四大名物にはルールがある。必ず“牛”のカルビ、ロース、ハラミで構成するというものだ。その理由を霜山氏は次のように語る。
「2018年当時は、薄い牛肉や牛以外の豚肉・鶏肉を豊富に扱う焼肉食べ放題店が多かったんです。だからこそ、厚切りの牛肉や大きな塊の牛肉を提供することに高い価値がありました。いつお見えになってもお客様から『新しい商品があるな』と感じてもらえるよう、1年ごとに肉の切り方や味付けを変えています」(霜山氏)
セルフ調理の手間を楽しみに変える期間限定メニュー
焼肉食べ放題店のマイナスをプラスに、そしてプラスをさらに磨き込んでいった結果、2020年に焼肉料理と焼肉テーブルオーダーバイキングで売上高業界1位を獲得した焼肉きんぐ。業績は好調だが、霜山氏は現状に満足していない。成長を続けるために、同社では次世代顧客の育成に注力しているそうだ。
「ファミリー層だけをメイン顧客に設定していては、対象顧客の高齢化によってビジネスがシュリンクしてしまいます。10~20代の若年層にも『外食をするなら焼肉きんぐが良い』と思ってもらえるように努力することが重要です」(霜山氏)
具体的なアクションとして、まずは四大名物を五大名物にアップデートした。一見、次世代顧客の育成には直接つながらなさそうなアクションだが、あえて最初に実行した理由を、霜山氏は次のように語る。
「F1層T層など、新しい層に向けた商品やサービスをいきなり数多く開発すると、元々来店してくださっているメイン顧客の皆様が行きづらいお店になってしまうからです。まずは焼肉食べ放題店としての基本価値を高め、メイン顧客であるファミリー層の満足度を向上し、パイが拡大したファミリー層に追いつくくらいT層、F1層、M1層を大きくする考えです」(霜山氏)
焼肉店は、顧客が料理の仕上げをする点に特徴がある。見方によっては手間とも言えるが「その手間を楽しんでもらうことができれば、焼肉店としての価値を上げられる」と霜山氏は考えた。そこで、焼肉の網で焼くミニたい焼きや、自身の手で握るおにぎりなど、手間を楽しめる期間限定のメニューを考案。UGCも意識して、写真映えする専用カップも作った。

「グランドメニューの対象顧客はファミリー層に設定したまま『ジャパンフェア』『韓国フェア』『北海道フェア』などの期間限定メニューでサブ層をターゲットにした商品を提供しています」(霜山氏)