全国規模でのプロモーション実施前に利用意向を検証
二つ目のモデルで求めるのは、「クリエイティブの効果を測るスコア」だ。同モデルでは、調査パネルにアンケート内でテレビCMを見てもらうことで、「どれくらいの利用意向のクリエイティブなのか」を調査し、クリエイティブの広告効果を定量的に測定する。
左側部分では、クリエイティブの種類やタレントの有無、訴求軸をリスト化。タレントを起用する場合は、起用している人物も記載する。右側部分では、調査パネルによるテレビCMの動画クリエイティブ視聴後にPocochaを使いたいと思った人の割合を性別や潜在・顕在別などで集計
これにより、ターゲットが接触した際の利用意向のスコアをクリエイティブごとに測定。それぞれのクリエイティブが持つ惹きの強さを測れるのだと川口氏は語る。
「通常、ターゲットに対する広告クリエイティブの効果を測定したい場合、デジタル広告などでターゲットを指定して配信を行い、そのターゲットでの効果を測るのが一般的です。しかし、この表を活用した方法だと、全体向けに調査を行い、各ターゲットからの反応を抽出し分析できます。これにより、たとえば総合のスコアは低いが、若い男性のスコアが突出して高いなどの結果が出た場合は、その理由の深掘りまで行えるんです」(川口氏)
三つ目のモデルで求めるのは、「利用意向率の変化を推定するスコア」だ。同スコアは、これまでの二つの調査で取得した「広告認知率」と「クリエイティブ利用意向」の掛け合わせで算出する。
このように、全国規模でプロモーションを行う前に一部エリアで小規模な施策をテスト的に行うことで、多額の費用をかけることなく事前に利用意向の上昇率を想定することが可能になる。
大切なのは、施策の検証や効果の説明を具体的に行うこと
四つ目のモデルで求めるのは、「NUU(ニューユニークユーザー)増加量」だ。マスプロモーション実施時には、短期的なユーザー数の増加ではなく、長期的なスパンのユーザー獲得が求められるというのがPocochaの考え。そこで必要になるのが、オーガニックでのNUUの獲得だ。川口氏によると、このNUUと市場でのサービスの利用意向には、一定の相関関係があるのだという。その関係性を基にNUUを推定しようと作られたのが次の図だ。
上の青い線はコロナが5類になる前で、下のオレンジの線はそれ以降となっている
「たとえば、広告認知率が20%のGRP量で、クリエイティブ利用意向が10%のクリエイティブをあるエリアのテレビCMで配信するとします。三つ目で紹介した表のように事前に様々なエリアでのテスト配信を実施して自社サービスの係数を算出しておけば、全国でこのクリエイティブのテレビCMを放送すると市場での利用意向率が○%上昇し、その結果○万人のNUUが獲得できるという具体的な試算を出せるようになるんです」(川口氏)
五つ目のモデルでついに求められるのが、「マスプロモーションの効果によるNUUの推移」だ。
そもそも、テレビCMを活用してプロモーションを複数回行った場合、1回に広告を実施した後は一定期間効果が残り、新たにプロモーションを実施することで中長期的に施策効果が積み重なっていくと考えられる。そのためマスプロモーションの効果は、短期的な新規ユーザー獲得だけではなく、ユーザーの利用意向を高め、その後の新規ユーザー獲得のベースを上げられたかという観点でも評価するべきだと川口氏は述べる。このモデルは、そうした残存効果の大きさやベースラインの上昇を施策ごとに色分けして推定するためのものだ。この推定NUU推移から見込み売上の算出も可能だという。
このように、Pocochaでは、4種類のデータを掛け合わせることで、マスプロモーションの広告効果を定量的に示すことに成功している。
今でこそマスプロモーションを大規模に実施できているPocochaだが、2020年頃にテレビCM施策を実施した際には、効果が出ないと施策を打ち切り、デジタルマーケティングへの注力に方向転換を行っていたのだという。
最後に村口氏は、過去の失敗を踏まえながらリサーチの重要性について語り、セッションを締めくくった。
「マーケティング施策には正解がないからこそ、施策の検証や効果の説明を具体的に行えることが何よりも大切です。今回ご説明した4種類のデータを活用し、ROIを推定する工程を行えば、どなたでもマスプロモーションの検証や施策効果の証明が行えるようになると思います。お役に立てば幸いです」(村口氏)
