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ブランドの歴史や理念を押し出せば共感を得られる、という思い上がり
ストーリーテリングに一定の効果はありますが、それは「必ず刺さる」「共感を得られる」といった伝家の宝刀ではありません。普通はスルー、悪ければ「知らんがな」がオチです。消費者が求めているのは「自分にとっての価値」であり、企業都合の押し付けられたストーリーには関心がありません。顧客が企業に求めているのはストーリーではなく、「自分に価値があるか」というメリット一点です。
読者がシラケる“押し付けコンテンツ”例を、いくつか紹介しましょう。
1.創業秘話の押し付け
「創業者の情熱」「幼少期エピソード」「理念&思い」は、読者の課題や知りたい情報と関連性がなかったり、直接的な価値を提供したりしていなければ、「それで?」という反応を起こすだけです。
【例】
「創業者が幼少期に母親と一緒に作ったドイツパンに感動し、それがきっかけで会社を立ち上げた」
↓
感動的だが、「このパンを食べることで、私の食生活がどう改善されるのか」といった価値が見えず、興味を持ってもらえない。
2.抽象的な「理念」や「ビジョン」の羅列
「お客様第一」や「社会貢献」といった一般的な言葉は、ただのノイズです。抽象的な美辞麗句は読者に「そういうのはいいから」と感じさせるだけです。
【例】
「お客様第一」「イノベーションで社会を変える」といった理念
↓
社内では響くかもしれないが、顧客にとっては具体性がなく、「ありきたりなスローガン」としてスルーされる。
3.過剰な自己アピール
成功事例や受賞歴を強調しすぎるあまり、「自分たちがすごいと言いたいだけなのでは?」と思わせる内容になってしまうと、読者の気持ちは離れる一方です。
【例】
「業界で〇〇賞を受賞」「年間販売数100万個突破」といった実績をアピール
↓
ブランドの信頼性を高める要素になる側面はあるが、顧客は「(どうでも)いいですね」と感じる。
顧客に響かないコンテンツが生まれる理由
「ストーリーを語れば、お客さんが我が社を好きになってくれるだろう」と安易な思考に陥る背景には、二つの要因があります。
1.自己満足的な視点
企業からすると、我が子にも等しい自社の歴史や理念、創業秘話は目に入れても痛くない可愛いものでしょう。キラキラなストーリーに仕立てたい気持ちもわかります。しかし部外者には思い入れはなく、やり過ぎは親バカに見えてしまいます。顧客が気にするのは、「そのブランドが自分にどんな価値をもたらすか」です。
【自問自答すべき問い】
-
「このストーリーは、顧客にとってどんな具体的な価値を提供しているか?」
→顧客が求める利益や課題解決につながっているかを明確にする -
「自分たちが伝えたいことと、顧客が知りたいことが一致しているか?」
→伝えたいことが企業目線だけでなく、顧客視点に立っているかを確認する
2.業界内での「正解」とされる手法への盲信
「感動的”風”な物語に化粧する→拡散される(と期待する)」という流れをコンテンツマーケティング術の一つとして捉える風潮もあると感じています。が、小手先のテクニックではなく、ブランドの個性、顧客のインサイト、競合との差別化、市場のトレンドを的確に捉えた上で初めて成立する高度な手法ですし、書き手のスキルにも依存するので、再現性はさほど高くありません。
【自問自答すべき問い】
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「顧客視点で自社ストーリーを聞いたらどう感じるか?」
→「だからどうした?」と顧客に思われないかを冷静に見極める -
「ストーリーはブランドの目的やゴールに沿っているか?」
→ブランドのビジョンやマーケティング戦略と一致しているか
このような状況を脱するためにはどうすべきでしょうか? まずは企業が「伝えたい」ことと、読者が「知りたい」ことは一致しない前提で、消費者視点での「価値」を掘り下げてみましょう。