欧米製のMAツールやSFAをうまく活用できない理由
日本と欧米には、スタイル・慣習・文化などの側面で違いがあると同時に、共通項もあります。ポイントは、両者の違いや共通項を理解した上で、欧米から取り入れる要素を取捨選択することです。

たとえばSalesforceやHubSpotのような欧米製のMAツールやSFAを導入しても上手く活用できない要因は、欧米の営業管理方法「パイプラインマネジメント」への理解不足にあります。
パイプラインマネジメントは「見込客獲得→見込客育成→機会発見→アポ→提案→交渉→契約→導入→サポート・フォロー→アップセル・クロスセルやリピート」の流れで展開されます。このうち営業が担うのは「機会発見〜契約」です。欧米製のMAツールやSFAは、それを前提に開発されています。
翻って日本の営業は、全プロセスが管理可能なモデル「トータル・パイプラインマネジメント」に当てはまります。欧米製のツールを選定する際は、日本市場や日本の営業組織の特徴を前提として最適解を考えるか、あるいは欧米型の構造にするか──その二つの選択を見極めなければならないのです。
ここで改めて、日本型モデルと欧米型モデルのメリット・デメリットをもう一度確認しておきましょう。日本型モデルのメリットは「長期的顧客関係」「組織的活動」「顧客ニーズへの柔軟な対応」などです。デメリットとしては「個別対応の非効率性や成果主義の欠如」「パイプラインの不在」などが挙げられます。
一方で欧米型モデルのメリットは「パイプライン管理」「戦略的マーケット・アプローチ」「スケーラビリティ」など。デメリットは「短期志向」「コミッション重視」などです。これらの違いを整理し、日本型モデルのメリットを活かしつつ、欧米型モデルのメリットを吸収する組織に改革することが、最適解への近道になります。
シェスの「統合モデル」をベースに推進せよ
ジャグディッシュ・シェス氏は、1973年に発表した論文『A Model of Industrial Buyer Behavior』の中で、産業市場(BtoB市場)における購買行動が、消費者市場(BtoC市場)とは異なる旨を報告しています。この論文の中にある組織図「産業購買行動の統合モデル」は、BtoB市場における購買プロセスを理解する上で非常に役立ちます。

この組織図は、企業の購買意思決定が環境要因・組織要因・個人要因の相互作用によって形成されること、産業購買では購買プロセスが単独(自律的)または共同(集団的)で行われること、関与者の期待、知覚・認知バイアス、組織の構造が購買行動に与える影響を示しています。統合モデル理論が広く支持されていることから、BtoBの購買プロセスは1973年時点で既に確立されていると言えるでしょう。
つまり、BtoBマーケティングは統合モデルの考え方をベースに推進しなければなりません。具体的には、次の三つのアプローチで対象顧客の購買活動を想定する必要があります。
- バイヤーグループやDMU(Decision Making Unit)のマッピング
- アカウント(企業)単位でのジャーニー作成
- カスタマー(個人)単位でのジャーニー作成