VUCA時代に求められる「ブランドのIP化」という視点
━━なぜADKマーケティング・ソリューションズ(以下、ADK MS)は今、アニメやゲームの枠を超えて、一般のブランドや商品において「IP化」が求められていると考えているのでしょうか。
三橋:VUCA(先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態)といわれる環境下で、新規顧客の獲得が難しくなり、何がヒットするかも見えにくくなっています。その中で、お客様をCPAなどの単なる「数字」として捉える効率だけを重視するマーケティングだけでは限界にきているのではないかという声をよく聞きます。また、それを実務の中でも感じております。
三橋:ROASを重視する顧客獲得を目的とした刈り取り型広告や、CRMでの囲い込みといった手法に対し、お客様の心理的側面では「刈り取りって何?」「囲い込まれたくないけど……」といった抵抗感があるはずです。
一方で、長く愛されるブランドには共通のストーリーや独自の立ち振る舞いがあります。これは、IPがフィロソフィーを持ち、受け手の感情を引き立てて楽しませる構造と共通しています。この共通点があるからこそ、ブランドのIP化にヒントがあります。
末本:IPの視点をマーケティングに取り入れる強みは、生活者にとってそのブランドが「機能や価格だけで比較される対象=コスパの対象」から、時間やお金をかける「投資の対象」へと変われる点にあります。
これまでは商品やブランドに関するあらゆる情報を伝え、まずは1回買ってもらうことがゴールになりがちでした。しかしIP領域では、無料でアニメを観たりノベルティに触れたりする中で、お金を払う前からファンになっています。
先に好きになってもらうための投資を行いながら、多面的に収益ポイントを用意する。この体験価値ファーストの思想がビジネスの持続的成長には極めて重要になってくると考えています。
LTV最大化の課題と独自調査にみる「推し活」のリアル
━━新規顧客の獲得が難しくなってきたことで、これまで以上にLTVを重視すべき時代が来ていると感じています。このLTVを重視する流れの今、従来のマーケティングが直面している課題は何でしょうか。
三橋:1歩目として、ブランドとの「出会い」そのものが失われつつある点です。現代はAI検索の普及などにより、指名検索されるような認知がなければ、ブランドになかなか辿り着けません。
そして、指名検索されるほどの高い認知を得るためには、商品が持つ独自のコンテンツを発信し、能動的な顧客体験を作っていく必要があります。
末本:生活者を「売る」相手ではなく「体験を届ける」相手として捉え直すことが不可欠です。一過性の露出で購入数を伸ばすだけではなく、体験を蓄積させて「関係資産」を残す活動へ重心を移さなければなりません。
━━IPにはどれだけ生活者を動かす力があるのか、ADK MSではIPに関する独自の消費者調査「Global IP Power Survey 2026 Report」を行っていますね。同調査から見えてきた、消費者の変化について教えてください。
末本:世界各国で日本のIPへの注目度は高まっていますが、国によって「どこが好きか」「何にお金を払うか」は大きく異なります。そのため、人気の理由を要素ごとに「構造分解」することが重要であり、「Global IP Power Survey 2026 Report」では世界各国のIPに対する考え方や行動を比較・分析しています。
その中で日本の特色としてあったのは、他国に比べて「コレクション欲」や「収集・探求」のスコアが非常に高いというデータが出ていることです。その一方で、自ら積極的に発信・アピールするスコアは若干低いという国民性も見られます。
また、かつては一部の層のものだったアニメやキャラクターへの愛着が、今や年齢や性別を問わず全年齢層に浸透していることも確実な変化です。
国民的IPの拡大を支えてきた、ADK独自の3つのノウハウとは?
━━長年愛されるコンテンツを扱ってきた知見を、IP関連ではない事業会社の支援にどのように転用しているのでしょうか。
末本:私たちは、長年の「経験」をデータ化・形式知化するために、主に3つの視点を意識してプランニングを行っています。
末本:1つ目は、独自調査を通じた「ビジネス・ファンの戦略的構造化」です。生活者がどこに惹かれ、どこで収益が発生しているのかを分析し、一般企業が持つ潜在的なチャンスを見つけ出します。
2つ目は、「人文科学的アプローチ」です。「今この時代に、この場所で、この人たちにとって、これは何のためにあるのか」「それがなぜ愛されることに繋がるのか」を徹底的に議論し、生活のなかで果たしている役割や本質的な提供価値を言語化します。
3つ目は、定量データと「現場のリアル」の掛け合わせです。営業(BP)やプランナーが現場で受け取った視座を社内で議論し、データの裏にある生活者の息遣いを捉えるようにしています。
━━具体的な分析のステップについても教えてください。
末本:心理軸と行動軸から現在の立ち位置を特定する「ポジション分析」を最初に行います。ここで心理軸と行動軸の両者を見るのは、IP領域では「課金する以前からファンになっている」ということが当たり前に起こるからで、その意味では「行動」も課金以外の様々な形を把握する必要があります。次に、そのブランドがどのような「感情報酬」を与え、何に課金しているのかという構造を突き止めます。
その上で、「熱量の高いコアファン(N=1)」へのヒアリングを行い、言語化された本質的な価値を未来の兆しとして消化していきます。
場づくりから行動変化まで、生活者の“行動理由”を設計する
━━「IP×マーケティング」のシナジーは、具体的にどのようなケースで発揮されているのでしょうか。
末本:分かりやすい事例としては「企業キャラクター」の開発・支援実績が豊富にあります。当社のプランナーがゼロから企画、制作するケースも少なくありません。
企業の課題や理念に応じて、商品体現型やユーザー代表型などの立ち位置を設計し、来店促進やインナーブランディングに大きな効果を生んでいます。
三橋:企業が直接発信しても届かないメッセージであっても、キャラクターが介在することで、生活者が素直に耳を傾けてくれるというメリットもあります。
末本:また、キャラクターが直接介在しない領域、例えば場づくり領域でも知見が活きています。物理的な空間提供にとどまるのではなく、体験を提供するエンターテインメントの空間へ置き換えることで、「また来たくなる理由」をプロデュースしています。
さらに、コモディティ商品や高機能家電などの愛着形成の領域にも有効です。コモディティ商品は機能での差別化が難しいため、IPビジネスで培った視点は、機能訴求だけでは生まれにくい行動理由や愛着を設計する、という考え方から学べるものは多いと思います。
高機能家電も同様に、生活者にとって「使ってみたい」と思える理由がなければ、結局は使われません。だからこそ、最初の行動理由をつくり、その後の継続利用や愛着形成につなげる体験設計が重要です。
三橋:ロジックの積み上げで正しい答えが出せるAI時代だからこそ、人はどう感じるかという翻訳や、ブリッジとなるクリエイティブジャンプを作れる我々の強みが活きると確信しています。
ADKが顧客を「数字」で見ずにアプローチできる最大の武器とは?
━━従来の広告プロモーションと、ADKが提供するアプローチの決定的な違いはどこにありますか。
三橋:最も大きな違いは、生活者を数字だけで捉えず、経済軸と同時に「心理軸」を徹底的に見ることです。私たちは「X-Pack(エックスパック)」という、心理軸と経済軸を掛け合わせた独自のフレームワークを活用しています。
顧客が今「ビッグファン」なのか「ライトファン」なのかを常にセグメント分析し、それぞれの心理を動かすアプローチでファン度が上がっていく仕組みを最適化しています。
末本:もう一つの違いは、「ビジネスの多層化」の設計にあります。単一の商材を売るだけでなく、会員化やコミュニティ化、流通接点の拡張など、複数の収益ポイントをどこでどう作れるかを設計します。
一般的なブランディング活動との違いを問われることが多いのですが、IP的な視点の最大の特徴は単発の施策単位ではなく、複数接点を含めた全体設計で投資対効果を考える点にあります。
複数の回収ポイントをあらかじめ用意しておく設計だからこそ、手前のステップではブランドの価値を育てることに全力投球できるのです。
三橋:もちろん、それらはデータサイエンティストによる深い分析という、確かな左脳的バックアップの元で行われます。
「この活動が、どの事業の収益に何億円貢献したか」を定量的な数字で可視化できるからこそ、企業も投資の意思決定ができます。
コスパに飲まれず愛され続ける、ファングロースパートナーの未来
━━ADKが目指す、日本発の「IPを基点としたブランド・事業開発」の未来図をお聞かせください。
末本:これからの時代、ブランドが「意味を持った存在」になれなければ、価格競争の激しい薄利多売か、効率論だけのマーケティングで戦い続ける未来しかありません。
私たちは、クライアント企業に対して「何を言うか」をカタチにする広告会社に見えていたかもしれません。私たちがずっと持ってきた、生活者から「愛され続ける関係性や理由」を共に考え作り出す会社としての本質をより進化させていきたいと思っています。
そしてこの進化は、当社がもつ、IP・エンタメ事業会社としての顔と広告会社としての顔の両方をかけあわせるからこそ、提供できる新しい価値だと自負しています。
三橋:昔から愛され続けている国民的IPを見ると、一見何も変わっていないように思えますが、実は時代に合わせて少しずつ変化を加えています。「いつまでも変わらなくていいよね」と言われるために、裏側でどのような変化を作っていくべきか。企業の変えてはならない核を守りつつ、時代の空気に合わせてアップデートしていく支援をより強めていきたいですね。
末本:その本質を進化させるためには、商品スペックの説明に終始せず、ブランドがまとっている世界観によって日々の生活が少し浮き立つような「体験の核と拡張」の設計をまず中心に置く、ということだと考えています。ADKが持つ、IP・エンタメ事業会社としての顔と、広告会社としての顔の両方を掛け合わせるからこそ、ご提供できる新しい価値だと自負しています。
三橋:私たちは「ファングロースパートナー」として、一過性のキャンペーンで終わる関係ではなく、クライアント企業とファンが長く良好に繋がり、売上も収益も共に高めていけるような伴走を続けてまいります。

