進化し続けるワークマン、変わらないのは「ワクワク」のDNA
MarkeZine:ワークマンは近年、次々と新業態を立ち上げ、ダイナミックにビジネスを拡大されています。顧客層やマーケティングには、どのような変化がありますか?
荻原:顧客層は作業服を求めるプロフェッショナル中心だった時代から、大きく変わりました。2018年に立ち上げた一般層向けの業態「ワークマンプラス」を皮切りに、「#ワークマン女子」「Workman Colors」などサブカテゴリーを拡大しており、おかげさまで一般のお客様にも広く認知いただいています。
それにともない、YouTubeやInstagramなどのソーシャルプラットフォームで商品を知っていただく機会もずいぶんと増えました。SNS上での文脈やトレンドに合わせてタイムリーに情報を届けていくことの重要性が高まっていると感じています。
MarkeZine:そのような変化の中で、ワークマンが「顧客体験」において大切にしていることはありますか?業態が多様化しても変わらない、核となるポリシーを教えてください。
荻原:ずっと変わっていないのは「お客様に“ワクワク”を提供するワークマンのDNA」です。以前、「やる気、ワクワク、ワークマン」というキャッチコピーを使っていましたが、今でもそのDNAは社内に根付いています。
多種多様な商品が置かれている店内には、棚ごとに幅広い用途や機能を持った商品が一堂に会しています。お目当ての商品の隣で、思わぬ商品との出会いが創出されるかもしれませんよね。もちろん、お客様が直感的に理解しやすいように情報は整理しつつも、「発見のワクワク」を大切に、店舗運営を行っています。
MarkeZine:ワークマンは基本的にフランチャイズで店舗展開していますが、このような顧客体験における指針は、スムーズに各店舗へ伝わるものなのでしょうか?
荻原:本部と店舗の連携がシームレスであることも当社の特長です。営業担当であるSV(スーパーバイザー)を介して商品の方針を伝えるなど、各店と密にコミュニケーションをとっています。こうした動きから、店舗と本部が一丸となって魅力ある売り場作りをしています。
顧客・店舗・本部が待望していた公式アプリが好評
MarkeZine:リアル店舗での顧客体験を重視しているワークマンですが、2025年に公式アプリをリリースされました。「App Ape Award 2025」で「新人賞」を受賞するなど注目を集めているそうですが、なぜこのタイミングで公式アプリをローンチすることになったのでしょうか?
荻原:膨大な商品情報や店舗情報を、お客様一人ひとりにわかりやすい形で提供することが最大の目的です。一般的な小売業のデジタル施策では、顧客データを取得してリマーケティングすることを目的にアプリを展開するケースが多いですが、ワークマン公式アプリはいつでもどこでもワークマンの情報を得ることができる「情報の羅針盤」のような場所を目指しています。
MarkeZine:なぜ、情報提供に特化したアプリを作ろうと思われたのですか?
荻原:サブブランドを増やしカテゴリー戦略を進めてきたことで、「作業服を買いに行きたいけれど、この店舗には売っていないのか?」「色々なブランドがあるけど、私は一体ワークマンのどの店舗に行けばいいのだろう?」といった迷いがお客様側で生じてしまっていました。私たちとしても、お客様一人ひとりに合わせた最適な案内が難しいことを課題に感じていたのです。
そこで、自分に必要な情報へすぐにアクセスできる、お客様にとっての「情報の集約拠点」が必要だと考え、その手段としてアプリを選択しました。
近藤:顧客の行動や購買履歴を追うことより、スマートフォンという顧客に最も近いところに、ワークマンの「今」が網羅されたメディアを置くことに価値を感じられたのですね。
荻原:はい、お客様自身の「嗜好」や「今その瞬間のシーン」に合わせて、ストレスなく最適な情報へたどり着いていただく――それこそが、ワークマンとして提供すべき顧客体験(CX)だと考えました。
MarkeZine:これまでになかったメディア(アプリ)を新しく立ち上げるとなると、社内の合意形成や店舗の巻き込みにハードルがあったのではないでしょうか?
荻原:前述の通り、ワークマンは部署や店舗が「お客様にこれを伝えたい」という熱い思いを強く持っています。そうした一体感と熱量があるので、「公式アプリを作ろう」となった瞬間、「あの情報も載せられる」「お客様にこうアプローチできる」と、社内全体で期待感が湧き上がりました。
顧客の悩みに寄り添ったことで生まれた、3つの象徴的な機能
MarkeZine:ワークマン公式アプリの象徴的な機能を教えてください。こだわりのポイントをご紹介いただけますか。
荻原:大きく3つあります。1つ目は「先行予約」の機能です。ありがたいことにSNSで話題になる商品も多いのですが、「せっかく店舗に探しに行ったのに買えなかった」と、お客様から厳しいお声をいただくこともしばしばあり、アプリで少しでも解消できないかと考えました。もちろん、これで問題がすべて解決したわけではありませんが、話題性と在庫のギャップを軽減することはできていると思います。
近藤:在庫問題はワークマン様に限らず、アパレル業界全体が抱える課題ですね。ただ、ワークマン様の場合は「ECで代替すればいい」という発想ではなく、あくまで店舗体験をより良くするためにアプリを活用されていますよね。公式アプリは、EC化のための接点ではなく、店舗体験を拡張する接点になっている。そこにワークマンらしさがあると感じました。
荻原:おっしゃる通りです。2つ目は、シンプルでわかりやすいUIです。直感的な操作で通信のストレスもないため、ECよりもシームレスに商品ページまでたどり着けます。また、些細な表現ひとつとっても「どちらの文言のほうがわかりやすいか」を徹底的に議論して作り込んでいるんですよ。たとえば、「商品検索」ではなく「商品を探す」にするなど、顧客目線での表現にこだわっています。
3つ目は、「店舗を探す」機能です。一般的な小売アプリは「特定店舗への誘導」が前提になっていることが多いですが、ワークマン公式アプリでは「そろそろ梅雨だし雨対策をしておこう」「アウトドア用のパンツが欲しい」といった、日常のふとした瞬間に生まれるお客様のリアルなシーンを起点にしています。
これらの機能は単なる店舗検索ではなく、お客様の「今ほしい」「今行きたい」というシーンに合わせて、最適な店舗や商品との出会いを後押しするものだと考えています。
近藤:お客様が動き出すその瞬間と、ワークマンの多様なブランドをその場で結びつける――この機能は単なる店舗検索ではなく、アプリのUXを突き詰めた動的な「シーンフィッティング」的な役割を担っていますね。
「お気に入り店舗」での普段使いのニーズと、出先での「今買いたい」というニーズ、ワークマン公式アプリはこの2つの購買パターンに対応できている。徹底した顧客理解があるからこそ、ニーズに基づいた仕様が生まれ、ユーザーからの高い評価につながっているのだと感じます。
ワークマン公式アプリの伸長を支えたのは、店舗と本部を繋ぐ「EX」の土壌だった
MarkeZine:リテール領域におけるアプリ開発に数多く携わり、ワークマン公式アプリの開発も支援されたヤプリの目線からは、ワークマン公式アプリの成功の秘訣をどのように分析されますか?
近藤:結論から言うと、顧客体験(CX)と従業員体験(EX)、2つの体験の掛け合わせが功を奏していると考えます。
昨今多くの小売企業がオムニチャネル施策を推進していますが、顧客向けの取り組みや「CXの向上」ばかりに目を向けがちです。しかし、現場の店舗スタッフや本部メンバーといった足元のEXが置き去りになっていると、アプリの意図や目的は現場に伝わらず、施策は形骸化してしまいます。
真のCX向上を実現するためのカギは、インナーコミュニケーションの活性化――社員に施策の目的を理解してもらい、当事者として向き合ってもらうためには「EXの向上」が不可欠なのです。これはリテールビジネスにおける昨今のトレンドでもあります。
荻原:まさに、足元のEXという土壌があったからこそ、今回の結果に繋がったと感じています。実は当社では、公式アプリを開発する前に、店舗と本部の連携を目的としたアプリを、ヤプリのEXソリューション「UNITE by Yappli」で開発していました。あらかじめ社内向けアプリを通じて、本部と現場がスムーズに連携できる基盤が整っていたからこそ、「徹底してお客様のシーンに寄り添い、網羅的に情報を届ける」という公式アプリの目的や存在もスムーズに受け入れてもらえたのだと思います。
MarkeZine:顧客と従業員、2つの体験向上に取り組まれた結果、ユーザーからはどのような反響が寄せられていますか?
荻原:プッシュ通知やアプリ内バナーなど、高頻度で様々な告知をさせてもらっていますが、継続して熱量高くご覧いただけていることがデータから明らかであり、ロイヤルカスタマーにしっかり届いていると実感しています。
また、アプリのダウンロード数はセール期間や展示会のタイミングなどで顕著に伸びる傾向にあります。広告やポイント還元キャンペーンなどで無理に引き込むのではなく、当社のことを能動的にリサーチしてくれている関心の高いお客様がダウンロードしてくれているからこそ、この熱量を実現できているのだと考えています。
関わる全員が「アプリ担当」の当事者。使いやすいUI・UXが次のアイデアを生む
MarkeZine:アプリ開発は初めてだったとのことですが、開発・運用の不安はありませんでしたか?
荻原:たしかに不安はありましたが、ヤプリさんの話を聞く中で「なんとかなりそうだ」と具体的な開発イメージを掴めました。既にEXアプリのほうでヤプリのソリューションに馴染みがあったことも、大きな安心材料だったと思います。
また、実際に手を動かす中で、アプリ開発プラットフォームである「Yappli」のUI・UXの高さを実感しています。アプリ開発には複数の部署が関わり、デジタルの知見がない社員も多々参加していましたが、今や全員がYappliを触れる状態です。関わる社員一人ひとりが「アプリ担当者」として当事者意識を持ち、自発的にデータを見に行き、社内連携しています。Yappliを通じて「データで語る文化」が生まれていると感じています。
主要製品の「マス化」に注力中。強力な接点として大切にアプリを育てていきたい
MarkeZine:最後に、これからワークマン公式アプリをどのように進化させていきたいか、展望を教えてください。
荻原:「今日のワークマンを知りたい!」と、お客様に毎日訪れてもらえるようなアプリにしていきたいです。そのために顧客目線で「あったらいいな」と思うコンテンツを積極的に企画し、「ワクワク」が溢れるアプリにできたらなと。たとえば、気温や天気に連動しておすすめ商品を紹介したり、お客様同士の「好き」が見える双方向のコミュニケーション機能を追加したりといったイメージです。アプリを通して、お客様にワークマンをもっと身近に感じてもらいたいですね。

また、現在ワークマンは中期経営計画で売上2,400億円という目標を掲げています。その達成に向けて直近では、リカバリーウェアの「メディヒール」をはじめとした主要製品を幅広い層へ広める「マス化」の推進に注力しているところです。
お客様に身近な「アプリ」という接点を強化することは、マス化商品をあらゆる層、あらゆるシーンに浸透させるためのPRに直結します。それがひいてはお客様の来店を生み出し、最終的な売上拡大につながっていくでしょう。今後もお客様に寄り添う強力なコミュニケーションツールとして、ワークマン公式アプリを大切に育てていきたいです。

